2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23730490
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
櫻田 和也 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 特任講師 (70555325)
|
Keywords | オペライズモ / 社会センター / アーカイヴ / ポスト・フォーディズム / 国際情報交流 / イタリア |
Research Abstract |
オペライズモ研究の空白を埋めるべく計画された本研究は、初年度イタリア現地における一次資料の蓄積およびその管理状態を調査、本年度は既存目録と照合しつつ基本文献目録を作成した。くわえて世界的受容の展開をみるために不可欠なパリ・コネクションについて聴取調査を行い、研究上重要な部分を遂行することができた。 とりわけ、かつてフェリックス・ガタリとともにイタリア亡命知識人の支援にあたったアンヌ・ケリアン女史に面会調査を実施し、70年代末のアントニオ・ネグリ亡命時の事情と、その後のMultitudes派の系譜と分裂について得られた知見は大きい。絶版書の再刊からは世界的なガタリ再評価の波及も確認された。 オペライズモ初期の理論形成過程については、既にマルクス『経済学批判要綱』の再読および社会調査方法論の応用に光をあてて『現代思想』誌に公表してきたが、パリ・コネクションについても杉村昌昭らの研究協力者らとともに次年度には同誌上ガタリ特集号を組むことになる。 またオペライズモ研究会においてはオートノミズム研究会主催の国際シンポジウム(東京外国語大学)に協力、マッシモ・デ・アンジェリスやジョージ・カフェンシスといった英語圏におけるオペライズモ受容を決定づけた研究者との公開討論を実施。参加者には中国語圏およびドイツ語圏におけるオペライズモ研究者もおり、本研究のグローバルな位置を確かめ方向性を共有することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では世界的な研究動向における位置をたしかめつつ・オペライズモ研究の空白を埋めること・その理論形成を検証すること・世界的な受容過程を解明すること、以上3点を目的としている。そのため文献データベースを構築し、英仏語圏への翻訳経路や相互参照の構造的分析を行ない、資料アーカイヴの管理者や翻訳・出版関係者への聴取調査によって裏付けるという方法をとっている。 初年度にはローマとミラノで最重要の資料アーカイヴを訪問調査したところ、実査において発見された未知の一次資料数がとりわけ厖大となり書誌情報の整理には支障をきたしたので、本年度においては不可欠の基本文献のみを目録化した。相互参照の構造的分析を実施するには作業計画のたて直しが求められる。 ひるがえって英仏語圏への翻訳経路をふまえた理論形成および世界的受容過程の分析については、上述のとおり聴取調査および研究交流を通じて大きな成果がえられている。とりわけパリ・コネクションの研究においてはきわめて豊富な成果がえられたので、早速ガタリ特集誌において公表の予定である。 ただし、その過程において判明したことでもあるが、文献資料のみによる相互参照の構造的分析という方法については・必ずしも人脈のひろがり・刊行物の流通経路を把握できるわけではないという限界がある。また、また、たとえばフランコ・ベラルディ"Le ciel est enfin tombe sur la terre," Seuil, 1978.のように、ほとんど知られていない入手困難な文献が大きな役割を果たしている場合があるということも判明した。 すなわち、いくつかの事実・概念・人脈がいかに重要なものであっても、それが活字化されているとは限らないのである。ここに思想史研究のアプローチとしては再考の余地が残されている。
|
Strategy for Future Research Activity |
書誌情報の整理については、対象を基本文献の目録化に制限することによって対応しているところであるが、当初の計画では、収集・閲覧資料から引用情報を入力した相互参照データベースをもって時系列分析を行う予定であった。 ところが本年度、世界的受容に決定的な役割を果たしたパリ・コネクションに集中して調査研究を実施した結果、必ずしも参照構造に着目するだけでは思想史上の諸問題を解明することはできない場合があるという限界も見出だされた。人脈および刊行物の流通経路を把握するためには聴取調査の方にむしろ注力しなければならない。 また、イタリアに現地おいて入手困難であっても上述ベラルディ(1978)のように現物を確認しておくべき文献がある。このためには、マルクス遺稿のみならず世界中の厖大な社会運動資料を収集しているアムステルダム社会史国際研究所(IISG)がオペライズモ関連も相当保有していると判明したので、早速にも訪問調査を行い以下の聴取調査の準備としたい。 本研究の最終目的である世界的受容過程の解明のためにはパリ・コネクションが最大の役割を果たしたことを再確認したことから、聴取調査についてはふたたびパリに訪問、ガタリ研究者のステファヌ・ナドーや上述のアンヌ・ケリアンに再聴取を実施したい。 なお、とりわけ80年代英語圏での受容にはニューヨークならびにロンドン経由のコネクションがあることも判明しているが、これについては日本語での受容もほぼ同時期であり先行研究も十分に存在するから、すでに作業量の増大が問題である今回の研究においては割愛することを決めた。 最後に(順序はパリ調査と前後する可能性もあるが)ふたたびイタリアでの現地調査を実施し、補完的な資料収集に加えてパリ・コネクションについて最終確認の聴取調査を重ねて本研究は終了の予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の配分については、おおむね予定どおりと見込まれる。本年度はアムステルダム・パリ・イタリアと予定している海外現地調査3回のための旅費および資料・物品費用がその大部分を占めることになろう。とりわけ処理すべき情報量が増大しているため、データ保管用の消耗品がかさむかもしれない。 なおデータの入力・分析についてはひきつづき研究代表者本人が行なうつもりであるが、あまりにも研究そのものが遅滞する場合、文献書誌情報の入力・聴取調査のデータ化については業務委託する可能性がある。その場合には訪問調査の滞在日数をへらすなどしてeメール等を用いた質問調査を併用し、旅費を圧縮して委託費にまわすことになる。ただし調査対象の特殊性から、直接訪問するのが望ましいことはいうまでもない。
|