2011 Fiscal Year Research-status Report
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23730501
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
右田 裕規 大谷大学, 文学部, 助教 (60566397)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ナショナリズム |
Research Abstract |
当該年度の研究活動では、とりわけ祝祭の〈商品化〉という事態に着目しつつ、天皇家の〈商品化〉過程がネイション編成にとってどのような意義を有していたかという問いにたいする経験的なアプローチを行なった。すなわち20世紀初期の民間企業が、天皇家の祝祭にあたって関連商品を厖大な量で氾濫させていたことに着目し、事態が近代民衆のナショナルアイデンティティ形成にとってどのような契機を構成したか、社会学的な視点から調査分析を実施した。 重点的に調査活動を行なったのは、継続的なアクセスが可能な京都市内の所属校と出身校の所蔵資料である。前者ではとりわけ大正大礼・昭和大礼にかかわる資料(『京都日出新聞』など)、後者では経済学部が所蔵する当時の代表的企業の営業報告書・事業報告書類を中心に関連資料の収集調査を実施した。また23年11月には国立国会図書館に出張し補完的な資料収集を行なった。 以上の研究活動をとおしてあかるみにしたのはおもに次の2点である。第1に、20世紀初期の都市世界では、資本が天皇家の祝祭の重要な演出主体として浮上したことにともなって都市的でモダンな祝祭体験が定着しつつあったこと。祝祭を商業的に活用する資本の動向を背景として、都市空間にあって天皇家の祝祭はしばしば〈国家の時間〉としてではなく〈消費に耽る時間〉として人びとから意味づけられ体験されていた。第2に、民間の祝祭グッズが好調だったのとは対照的に、国家が関与した「生真面目」な祝祭関連商品の消費実績はしばしば低調な結果におわっていたこと。以上2点をつまびらかにすることで、国家的シンボルの商品化という事態をネイション編成と一元的に結びつけてとらえる傾向が強い既存のナショナリズム論にあたらしい視点を付け加えることができたとかんがえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した「研究の目的」は、20世紀初期の日本社会で〈天皇家の商品化〉という事態がどのような社会的機制のもとに進展し、また、民衆のナショナルアイデンティティ形成とどのようにかかわりあっていたかという点を研究上の主軸の問いとしてすえている。当該年度の研究活動は、天皇家の商品化が最も活発化する契機である祝祭を事例として上記の問いにたいする経験的な考察・回答を展開したものとして位置づけられる。おもにそれは次の2点においてである。第1に、民間企業による祝祭関連商品・企画の氾濫が国民国家の論理とは無関係な動機(資本の論理にもとづいた利潤の追求)によって生じた現象であったことをあかるみにした点。すなわち天皇家のグッズ化の進展は、ネイションの編成主体である国家の思惑以上に、資本の思惑を大きな背景として進められた可能性が上記の研究活動をとおして提示できた。第2には、祝祭関連のモノとサーヴィスの氾濫を背景として、都市世界の人びとは天皇家の祝祭を国家的なイヴェントとしてでなく、大衆娯楽的なイヴェントとして意味づけ体験するようになっていたことを指摘した点である。「生真面目」な奉祝グッズの消費実績がしばしば低調だったという知見とあわせて、天皇家にかかわる商品の大量流通が人びとの国民意識の喚起・編成と直接には結びつかなかった可能性がここでは提示されている。 初年度にあたる当該年度の研究活動では、基礎的な資料収集・調査におおくの時間を割いた関係上、天皇家の商品化過程を包括的にとらえるまでにはいたらなかったが、以上の点から研究はおおむね順調に進展しているものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては次の3つの課題にそった研究活動を予定している。第1には、19世紀後半から20世紀半ばまでを見通したより長期的な視点から、天皇家の商品化過程の実態を跡づけること。とりわけこの課題に関しては、警察統計、社史、産業別会社年表などを手がかりとして、皇室関連グッズの販売状況を通時的に捕捉する調査を実施する。これにより、時代による変化を視野にいれたより精緻で包括的な視点から、天皇家の商品化過程について経験的な考察を加えることをめざす。 第2に、天皇家の商品化をすすめる民間業者・企業の動向に対して行政や警察機構がどのように対応していたかを経験的に把捉することである。すなわちネイションの編成主体がどのように皇室グッズの氾濫という事態をとらえ、ここにかかわりあっていたかという点について調査分析を進める。この課題にかんしては23年度においてすでに準備的な調査を進め、成果報告をしているが、今後は未公刊の公文書類を中心の資料にした検討作業を実施する。この課題は、天皇家の商品化という事態が原則的に、国家の思惑とは独立したかっこうで進展していった可能性をより精緻に検証することをねらいとしたものである。 第3には、皇室グッズが生活世界に氾濫するなかで、民衆がそれらの商品群をどう意味づけどう消費していたかという点について、都市・農村、所属階層によるちがいなどに注目しつつ分析をくわえることである。平成23年度から祝祭グッズの消費実績や消費過程についての調査は進めてきたが、今後は皇室グッズへの人びとの態度にかかわる資料をより幅広く収集・調査することで、皇室グッズの氾濫という事態がネイション編成上にとって有した意義について、消費者=大衆の経験世界にそくしつつ再検討することをめざす。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度の研究活動では、天皇家の商品化過程にかかわる基礎的な資料(とりわけ祝祭グッズにかかわる記録)の調査分析に力点を置いたため、当該年度の研究活動の遂行に当たっては京都市内にある所属校と出身校で十分な資料収集が行えた。また研究の中心的事例にすえることになった祝祭(大正大礼・昭和大礼)については、京都市内にある所属校・出身校がとりわけ貴重な資料を多数収蔵していたこともあって、国立国会図書館への調査旅行回数が当初の計画よりかなりすくなくなった。そのため「旅費」と「その他」(国会図書館での文献複写費)に繰り越し分が生じている。 上記の研究推進方策を実行する上で、次年度にはさらに詳細な資料調査活動が必要となるが、所属機関を変更した関係上、資料調査のための出張回数と出張にかかる経費は23年度よりもかなり増加することが予想される。とりわけ第2点として掲げた行政の動向の調査にあたっては、国立国会図書館憲政資料室など東京の文書館が所蔵する未公刊資料の精査が不可欠の作業となる。そこで次年度の研究費の使用にあたっては、繰り越し分をあわせ、調査旅行費についてとくに重点的な配分を行う。
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