2011 Fiscal Year Research-status Report
公的扶助制度における就労支援体制構築への視座-フランスを事例として-
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23730517
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Research Institution | Toba National College of Maritime Technology |
Principal Investigator |
小澤 裕香 鳥羽商船高等専門学校, 一般教育, 助教 (00582032)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | フランス / 公的扶助 / 貧困 / 失業 / RMI,RSA / 社会的排除 / 参入支援 / 就労 |
Research Abstract |
本年度は、フランスの労働年齢層を対象とした公的扶助制度(RSA)について、パリにおいて2度にわたり現地調査を行った。ヒアリング調査は、パリ参入スペース(EI)等の参入支援実施機関で行った。ヒアリング調査を通して、RSAの参入支援の実施体制、具体的な支援の流れ、受給者の実態や参入支援の運用実績に関する行政・統計資料を得ることができた。 とりわけ参入支援の実施体制に関しては、以下の特徴が明らかになった。まず、各受給者には専門性を備えた支援員が配置され、個々人の抱える問題に配慮した個別支援体制が敷かれていることである。とりわけ、EIにおいてはソーシャルワーカーと就労支援員が2人一組で受給者を社会的・職業的側面から支援する点はユニークである。次に、複合的な問題に対処可能となるように行政内の関連部署間・国や地方の管轄の垣根を越える連携体制の構築が目指されていることである。NPOとの連携も密接である。さらに、RSA受給の停・廃止や支援員の再配置等を決める会議には、支援員とともにRSA受給者も出席しており、当事者参加が実現している。最後にRSA参入支援の実施体制は、行政の責任(義務)のもとに組織され遂行されている点があげられる。このような現地調査を通して得られた知見は、学会報告によって広く共有された(「RSA制度における参入支援政策の実態-パリを事例として-」第123回社会政策学会秋季大会、2011年10月、京都大学)。 他方で、RSAに見られるような雇用復帰志向の所得保障という理念は、欧州統合の展開の中で進められている社会政策の影響を多分に受けている。それゆえ、調査の傍らEUレベルでの社会政策の動向についての研究も進めており、その成果の一部として以下の著作を翻訳した。ドゥノール、シュワルツ著『欧州統合と新自由主義――社会的ヨーロッパの行方』論創社、2012年6月刊行予定(共訳)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はパリを事例として、公的扶助制度における参入支援政策(積極的労働市場政策)の理念とその実施体制、そして運用実態を検討することによって、公的扶助制度がもつ雇用創出機能の現状と課題を明らかにすることを目的としている。本研究の成否は、方法論に掲げていた現地でのヒアリング調査実施のための、参入支援政策の運営主体である行政関係者等様々な支援者との人的ネットワークがいかに構築できるかにかかっている。幸いなことに、二度にわたる現地調査において、ヒアリングを通して貴重な情報を得るとともに非公開の行政・統計資料の提供を受けることができ、目的達成へ近づく条件が整いつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の前半は、本年度に入手したデータの読み込みと分析を進めながら、参入支援の要である雇用の側面を重視した現地調査の準備を進める(調査は9月に実施予定)。後半(10月以降)は、新たに入手したデータの読み込みと分析を行うとともに、研究成果としてまとめる作業に従事し、学会発表や論文投稿による公表に力を注ぐ。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
申請した研究経費においてその多くを占めているのは物品費(図書・資料)と旅費である。本研究は、文献検討を踏まえた現地調査を主な方法論としているため、両項目において経費を重点的に配分して使用する。
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