2011 Fiscal Year Research-status Report
三次元空間の知覚における情報の統合について:発達研究の視点から
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23730709
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
鶴原 亜紀 中央大学, 研究開発機構, 機構助教 (40342688)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 空間知覚 / 奥行き手がかり / 乳児 |
Research Abstract |
本研究の目的は、三次元空間の知覚における情報の統合について発達過程を検討することである。自分と対象との距離関係や対象の立体形状といった空間情報は、おもに視覚的な奥行き手がかりによって獲得される。奥行き手がかりとなる情報は、単眼視でも得られる単眼奥行き手がかりと、両眼視によって得られる両眼奥行き手がかりがある。このような様々な空間情報を統合する能力の発達過程を検討することは、空間情報の利用と学習経験との関係性を明らかにすることにつながる。H23年度は、単眼視でも得られる奥行き手がかりと両眼視で得られる奥行き手がかりの情報の統合、および、物体の異なる方向から投影された静止像の統合について検討することを計画していた。前者については、単眼視と両眼視での奥行き知覚の比較について乳児を対象とした行動実験を実施した。乳児は近くにあるものを遠くにあるものよりも長く見る性質がある。この性質を利用して、大きい顔と小さい顔を対提示し、生後4-5ヶ月の乳児が、単眼視では両眼視よりも大きい顔より長く見ることを示した。両眼視条件では両眼視差手がかりにより2つの刺激が等距離にあると知覚し、一方、単眼視条件ではそのような情報がないため、成人と同様に、大きな顔のほうが近くにあると知覚したと考えられる。大きさという単眼手がかりから奥行きを知覚できる月齢においても、単眼手がかりと両眼手がかりが競合した場合に、両眼手がかりも用いて知覚することが示されたと言える。本研究結果は国際学会で発表し、英語論文を投稿中である。後者の物体の異なる方向から投影された静止像の統合については、予備実験において、提示する刺激の種類によっては、統合することなく、すなわち一枚の静止像からでも物体を同定できる可能性が示された。このため、提示する視覚刺激および実験内容の変更について、研究協力者と共に議論を重ねている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、三次元空間の知覚における情報の統合について、乳児を対象とした行動実験から発達過程を検討することである。H23年度は、単眼視でも得られる奥行き手がかりと両眼視で得られる奥行き手がかりの情報の統合、および、物体の異なる方向から投影された静止像の統合について検討することを計画していた。前者については、問題なく推移し、2011年8-9月に開催されたEuropean Conference on Visual Perception(ECVP)において研究成果を発表し、現在、英語論文を投稿中である。後者の物体の異なる方向から投影された静止像の統合については、やや計画からの遅れが生じている。予備実験において、提示する刺激の種類によっては、統合することなく、すなわち一枚の静止像からでも、乳児が物体を同定できる可能性が示されたためである。このため、提示する視覚刺激および実験内容の変更について、研究協力者と共に議論を重ねる必要が生じ、本実験を実施するに至らず、被験者謝金などについて繰越金が発生した。研究協力者との議論の結果、コンピュータグラフィックを用いていたため、刺激が単純なものとなった結果、刺激条件によっては空間情報を用いなくても物体の同定ができた可能性が考えられた。また、刺激の輝度やコントラスト、および、被験者の月齢にともなう視力と空間周波数との関係によって、背景の方が被験者の興味を引きやすく、結果にばらつきが生じた可能性が考えられた。これらを踏まえ、H24年度においては、より実際の物体観察状況に近くなるように動画を撮影し、それを静止画に加工した刺激を用いることを検討している。さらに、刺激の輝度やコントラスト、空間周波数などの影響が考えられたため、その点を明らかにすることも検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、三次元空間の知覚における情報の統合について検討を進めている。H24年度は、大きな変更として、研究代表者の所属変更により、乳児を対象とした行動実験は、国内外の研究協力者(中央大学山口教授、米国Minnesota大学Prof. Yonas、ドイツBonn大学Priv.-Doz. Kavsek)と共に実施する必要が生じている。このため、研究代表者が研究協力者の研究室に出張し直接議論を重ねる予定である。また、研究代表者のH24年度からの所属機関では、脳磁図を用いた実験も可能であることから、本研究課題を発展させるものとして、同じ刺激を提示された成人の脳活動の測定も視野に入れた議論を予定している。本研究の目的の1つである単眼奥行き手がかりと両眼奥行き手がかりの情報の統合の検討については、H23年度は問題なく推移し、単眼手がかりから奥行きを知覚できる月齢においても、単眼手がかりと両眼手がかりが競合した場合に、両眼手がかりも用いることを示した。H24年度は、両眼視の場合における単眼手がかりの重みづけについて調べることを予定している。もう1つの目的である物体の異なる方向から投影された静止像の統合の検討については、H23年度に実施した予備実験において、刺激の種類による結果のばらつきが見られた。このため、研究協力者と議論を重ねる必要があり、本実験を実施するに至らず、被験者謝金などについて繰越金が発生した。この点について、予備実験ではコンピュータグラフィックを用いていた点をふまえ、H24年度においては、動画を撮影し、それを静止画に加工した刺激を用いることを検討している。さらに、刺激の輝度やコントラスト、空間周波数などの影響が考えられたため、その点を明らかにすることも検討している。被験者からの直接の応答を取れない乳児実験では、このような比較的初期の処理の影響の分離は重要な問題である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H24年度は、研究代表者の所属変更のため、乳児を対象とした行動実験は、国内外の研究協力者(中央大学山口真美教授、米国Minnesota大学Prof. Albert Yonas、ドイツBonn大学Priv.-Doz. Michael Kavsek)と共に実施する必要がある。このため、大きな支出として、研究代表者の出張費が多く必要となる。具体的には、交通費・宿泊費を含めて、国内出張は1回50,000円、国外出張は1回300,000円とし、国内出張は打ち合わせと学会参加を含め約2ヶ月に1回の計6回、国外出張は打ち合わせと学会参加を含め計3回を予定している。また、本研究では、異なる視点からの静止画像の統合について調べることを目的の一つとしているが、H23年度に実施したコンピュータグラフィックを用いた予備実験において、刺激ごとにバラつきが見られた。この点について議論を重ねたため、繰越金が発生した。刺激の改善について、H24年度は、動画を撮影し、それを静止画に加工した刺激を用いることを検討している。このため、刺激作成のためのビデオカメラ(80,000円)およびグラフィックソフト(100,000円)の購入を予定している。また、刺激の輝度・コントラストおよび空間周波数の影響を調べるために、画像解析のソフト(100,000円)が必要となる。そして、このような解析を可能にする性能を有するコンピュータ(300,000円)が必要となる。その他、論文投稿のための英文校閲の謝金、論文が掲載された場合の掲載費および抜き刷り印刷費、データ保存用DVD-Rなどの消耗品費、被験者および研究協力者とのやりとりのための郵送費(70,000円)が必要となる。
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[Presentation] Infants' perception of depth from familiar size, and effect of moving information: Comparing monocular and binocular preferential-looking2011
Author(s)
Tsuruhara, A., Corrow, S., Kanazawa, S., Yamaguchi, M. K., & Yonas, A,
Organizer
The 34th European Conference on Visual Perception.
Place of Presentation
Toulouse, France
Year and Date
2011年8月30日
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[Presentation] Infants' ability to perceive depth produced by vertical disparity.2011
Author(s)
Tsuruhara, A., Kaneko, H., Kanazawa, S., Otsuka, Y., Shirai, N., & Yamaguchi, M.K.
Organizer
Vision Sciences Society 11th Annual Meeting.
Place of Presentation
Naples, USA
Year and Date
2011年5月8日
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