2011 Fiscal Year Research-status Report
半導体工学・プラズマ物理に現れる双曲・楕円型連立方程式系の数学解析
Project/Area Number |
23740111
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
鈴木 政尋 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (30587895)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | Hydrodynamic model / Drift-diffusion model / Euler-Poisson equations / 安定性解析 / 漸近解析 / 解の爆発 |
Research Abstract |
半導体工学・プラズマ物理に現れる双曲・楕円型連立方程式系で与えられるモデルに対する初期値境界値問題の解の挙動を解析することが本研究の目的である.これまで研究代表者は半導体中の電子流を記述するモデル方程式の時間大域可解性などの問題を一次元領域上で解決してきたが,半導体デバイスの構造を考慮するならば,それらのモデル方程式は多次元有界領域上で解析すべきある.本年度は,比較的易しい放物・楕円型連立系で与えられるモデルに対して,ディリクレ・ノイマン混合型境界条件を課した多角形領域上で定常解の安定性解析を行った.成果としては,安定性の証明で鍵となる電子密度の正値性をエネルギー法で導く事に成功している. プラズマが接触する固定壁付近に形成されるシースの数学解析も行っている.これまでの代表者の研究により, Bohm条件(プラズマ物理で提案されているシースが形成される為の条件)は,プラズマのモデル方程式に定常解が存在して安定であるための十分条件を与えることが示され,数学的な観点からはシースは定常解に対応することが解明されている.この研究成果を発展させて,シースとプラズマが遷移している状態を解析している.モデル方程式の解は時間経過とともに,定常解と希薄波とよばれる特殊な解の重ね合わせに漸近すると予想できる.代表者と本質的に同様な予想を立て数値実験を行っている論文[J. W. Cipolla and M. B. Silevitch, On the temporal development of a plasma sheath, J. Plasma Physics vol.25]があり,これを参考にして共同研究者とともに簡易的な数値計算を行ったところ,解は定常解と希薄波の重ね合わせに漸近している様子が見受けられた.プラズマ領域は希薄波に対応すると確信でき,この事実の証明に取り組んでいる最中である.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
半導体の放物・楕円型連立系モデルに対してディリクレ・ノイマン混合型境界条件を課した多角形領域上の解析では,安定性の証明で鍵となる電子密度の正値性が得られており,問題解決の見通しが得られている. また,プラズマのモデル方程式については,シースとプラズマが遷移している状態を考察した.簡易的な数値解析ではあるが,プラズマ領域は希薄波に対応することが確認された.本研究の根幹となる予想に確信が得られたことは大きな成果である. 以上より,おおむね順調に進展していると判断できる.
|
Strategy for Future Research Activity |
半導体の放物・楕円型連立系モデルについては,本年度に得られた密度の正値性及び,エネルギー形式を用いた積分量の評価よりアプリオリ評価を導き,時間大域可解性と定常解の安定性を示す.さらに,この研究成果を踏まえて,より困難な双曲・楕円型連立系モデルに対して長方形領域上で定常解の安定性解析に取り組む.その際,偶関数拡張や奇関数拡張を用いて,長方形領域の問題を帯状領域上の問題に帰着することが証明の鍵となろう.さらに,双曲・楕円型連立系モデルの解の特異極限が放物・楕円型連立系モデルの解に収束することを示す. 一次元有界領域上での特異極限の研究で開発した,時間方向に重み関数を使用するエネルギー法が援用できるだろう. 一方,プラズマのモデル方程式の解析では,定常解と希薄波とよばれる特殊な解の重ね合わせに漸近することを理論的に示すことが目標となる.この証明は,スペクトル解析による解の各点評価と,定常解の安定性解析で使用した空間方向に重み関数を付けたソボレフ空間を使用する手法を組み合わせて行う.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
経理上の問題として平成23年度の執行額の残額が生じているが,実際には平成23年度中の旅費として既に使用しており出張報告も完了している.以下,次年度の研究費の使用計画を述べる. 半導体の放物・楕円型連立系モデル及び,双曲・楕円型連立系モデルに対して時間大域解を構成する際には,エネルギー形式を用いた積分量の評価からアプリオリ評価を導く必要があり,エネルギー形式を用いた数学解析の大家である松村昭孝教授(大阪大学)のもとを訪問して助言を乞う.そのための旅費を計上する. 一方,プラズマのモデル方程式の解の漸近挙動に関する問題を解決するため,プラズマ方程式の解析の権威である Pierre Degond 教授が所属するCentre National de la Recherche Scientifique を訪ねて研究上の議論を行う.元々,シースに関する問題は Degond 教授から示唆を得ており,有意義な意見交換が期待される. 得られた研究成果は日本数学会などの国内会議で随時発表する予定であり,出張旅費が必要となる.また,毎年発刊される関連図書の充実は研究課題の解決に不可欠であり,それらの図書を適時補充する.
|