2011 Fiscal Year Research-status Report
ゲージ重力対応における空間的非一様性効果の基礎的研究
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23740200
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Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
前田 健吾 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (10390478)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | AdS/CFT双対性 |
Research Abstract |
研究目的で述べた通り、AdS/CFT双対性を応用して格子構造を持つ強相関量子多体系の重力モデルを構築することは、物性物理における強相関効果を理解する上で非常に重要である。そこで、今年度は当初の研究計画通り、簡単な重力系で格子構造を持つモデルの構築を行った。通常の物性理論では、クローニッヒ・ペニーモデルに見られるように、周期的なクーロンポテンシャルを導入することによって、格子構造が構築できる。そこで、場の理論側において化学ポテンシャルに周期性を導入し、それに対応するブラックホール解を世界で初めて摂動的に構築した。モデルは一番単純なアインシュタイン・マクスウェル理論を用いて、一様等方なブラックホール解であるRN-AdS解の重力摂動を計算した。特に非常に長い周期を持つ化学ポテンシャルの場合には、解析的に近似解を得ることができた。また、ゼロ温度極限では、ホライズンに向けて落下する観測者から見て曲率が発散する特異点をホライズン上に持つことが分かった。これは、量子臨界点付近の重力モデルとして近年注目されているリフシッツ時空で見られる性質と非常に似ており、今後の格子構造を持つ強相関効果を理解する上で重要な性質と考えられる。これらの成果は、昨年秋の日本物理学会で発表され、その詳しい内容はPhysical Review D85, 066003にすでに論文として掲載された。また、強相関量子多体系のフェルミ面の非等方性を調べるため、一様非等方なブラックホール解の一般的な性質も調べた。その結果、熱力学第3法則が一般的に成り立つことが分かり、通常の物性理論におけるゼロ温度極限における性質(エントロピーがゼロ温度でゼロ)を再現することができた。この研空成果は、春の日本物理学会で発表され、現在論文を雑誌に投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画通り、格子構造の入った重力モデルを構築することができた。また、フェルミオンのバンド構造やバンドギャップを調べるために、この格子構造の入ったブラックホール時空上でディラック方程式を数値的に解きつつあり、近々その研究成果を発表する予定である。従って、当初の研究計画よりも多少遅れてはいるが、ほぼ順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に構築した非一様ブラックホール解を用いて、フェルミオンのスペクトルやバンド構造を数値的・解析的に調べていく。また、解析が比較的簡単なテストスカラー場などに格子構造を取り入れ、AdS/CFT対応において、どの様にバンド構造が見えるのか解析的に探っていく。さらに、格子構造を持つブラックホール解の上で、ゲージ場などの摂動を行い、伝導性が格子構造によってどの様に変更されるのかその散逸構造を調べていく。特に期待されるのが、外場の振動数がゼロ付近での変化であり、この近傍における振る舞いをAdS/CFT対応を用いて詳細に調べていく。また、空間的に非一様なAdS/CFT双対性の非自明な検証として、強結合な場の理論側の動的な非線形現象を一般的に調べていく。このような動的な非線形現象は、乱流などの研究において重要であり、AdS/CFT双対性を通じて場の理論側の非平衡状態を探る上で非常に重要である。まずは、昨年ホロビッツ教授らによって発表された、AdS時空があらゆる非線形摂動に対して不安定であるという非常に興味深い予測について、重力理論を駆使してより詳しく解析をしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の研究使用計画通り、研究成果をより早く広く世界に発表するため、ストックホルムで開かれる国際会議に出席するための外国旅費を40万円ほど支出する予定である。 また、共同研究者との研究打ち合わせ旅費や、国内発表のための旅費として10万円ほど支出する予定である。さらに、今後の研究を進める上で不可欠な専門書の購入や、数値計算に必要なソフト等の購入に約20万円ほど支出する予定である。
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Research Products
(3 results)