2012 Fiscal Year Research-status Report
ゲージ重力対応における空間的非一様性効果の基礎的研究
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23740200
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Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
前田 健吾 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (10390478)
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Keywords | AdS/CFT双対性 |
Research Abstract |
今年度は、昨年度に引き続き格子構造を持つ外場が与える強相関量子多体系物理への影響を、AdS/CFT双対性を用いて調べた。特に近年注目されているのが、格子構造を持つ外場中でも、Hartnoll, Herzog, Horowitz(HHH)らが構築した超伝導状態が維持されるかどうかという点にある。これをなるだけ解析的に調べるため、周期構造を持つポテンシャルを持つ複素スカラー場の解析を行った。解析を簡単にするため、HHHのモデルと同様に重力の効果を無視し、格子の空間的揺らぎの大きさを摂動で取り扱った。このモデルでは、摂動パラメーターがゼロのとき、従来のエネルギーギャップが生じるようなモデルになっている。このエネルギーギャップは、バルクゲージ場の摂動方程式の解析からわかり、振動数のゼロ極限において、電気伝導率の虚部のポールの存在が超伝導状態において不可欠となる。解析の結果、本モデルでも、摂動の二次まで計算を行い、並進対称性のある場合と同様、ポールの存在が確認された。この研究成果はJournal of High Enegy Physics という雑誌に学術論文(JHEP11(2012)117)として掲載された。この論文は、その後詳細な数値計算を行ったHorowitzらの論文にも引用されている。 また、今年度はAdS/CFT双対性において生じた新たな研究テーマとして、時空特異点がAdS時空ではどんな初期条件でも生じるかどうかという研究にも挑んだ。この問題は、境界上のゲージ理論におきかえると、どんな初期条件で出発しても、必ず有限温度の熱平衡状態に収束するかどうかという熱化のプロセスと関連したAdS/CFT双対性における基礎問題の一つである。本研究では、球対称AdS時空で、完全流体のダイナミックスを考え、どんな初期条件でも必ず時空特異点が発生することを示した(PRD86、104012)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目的の1.に記した格子構造の入った強相関量子多体系物理へのAdS/CFT双対性の応用は、現在のところ、上述のように順調に研究が遂行されている。ただ、上述の研究では、重力の効果が加味されておらず、まだ不十分である。格子構造は、物性理論において不可欠な要素であり、強相関量子多体系を理解する上での基礎となる。そこで、より深く追求するため、後述の研究計画通り、格子構造を持つ時空の理解を深め、格子構造の持つ超伝導状態を解析していく。また、格子構造を持つ空間的非一様な時空上で、強相関量子多体系をより深く探ることで、研究目的の2.におけるAdS/CFT双対性の非自明な検証が可能と考えており、現在までのところ、その検証の一部が遂行できたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、超伝導状態が格子構造の導入によって、どのように影響を与えるか重力の効果を取り入れて詳細に調べていく。特に興味深い点は、超流動状態が、格子構造を持つ時空でも維持されるかどうかであり、この点に焦点を絞って検証していく。この問題は重力理論におけるブラックホールの剛性定理と絡んだ基礎的な問題であり、広く国内外の関連する研究者と議論を行いながら取り組んでいく。この研究テーマは、Horowitz教授らが最近数値計算によって明らかにした研究の拡張であり、今後Horowitz教授らと議論する機会を作っていく予定である。また、超弦理論に詳しい京都大学基礎物理学研究所の飯塚特任助教や、重力問題に詳しい近畿大学の石橋准教授と協力して推進していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記研究を推進するため、国際会議や国外の長期滞在のための国外研究旅費を使用する予定でいる。また、国内との研究者との研究打ち合わせや議論のための国内旅費も使用する予定である。さらに、AdS/CFT双対性に絡む新しい研究テーマに取り組むための専門書の購入や、数値計算を効率的に行うための数値計算ソフトの購入なども計画している。
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Research Products
(4 results)