2011 Fiscal Year Research-status Report
新規ピンサー型金属錯体の合成とアンモニアを用いた触媒反応への応用
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23750064
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
亀尾 肇 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任講師 (50597218)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 無機化学 |
Research Abstract |
高周期14族元素(Si, Ge, Sn)を中央元素に有するピンサー型三座配位子前駆体の合成法を確立した。それら配位子前駆体と既存のロジウムおよびイリジウム錯体との反応から、目的とした Si, Ge, Sn を三座配位子骨格に組み込んだ錯体の合成を達成している。またSi, Ge, Sn を含む四座配位子前駆体の合成法を併せて確立することができた。それら配位子前駆体と種々のロジウムおよびイリジウム錯体との反応から、目的とした四座配位子を有するロジウムおよびイリジウム錯体を合成した。四座配位子を有する錯体では Si, Ge, Sn は強いσ電子供与性配位子として機能し、さらに強力なトランス影響を発現することを明らかにしている。また、目的とした PEP ピンサー型配位子前駆体とロジウム前駆体との反応を検討する中で Si-CH3, Ge,-CH3, Sn-CH3 結合が容易に切断される反応を発見した。Si-CH3 や Ge-CH3 結合が遷移金属錯体によって切断された例は極めて限られており、興味深い知見が得られている。ホウ素配位子がσ受容性(Z型)配位子として機能するロジウムおよびイリジウム錯体の合成法を確立した。Z型配位子を有する錯体はその存在自体がまれであるため、本研究で得られた錯体群は貴重な合成例である。さらにZ型配位子を有するロジウム錯体のアニオンおよびカチオン誘導体を合成した。一連の錯体の構造解析を行い、さらには電子状態を DFT 計算によって評価した。その結果から、ホウ素電子受容性(Z型)配位子が「中心金属の電子状態を調整すること」や「強いトランス効果を発揮すること」が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Si, Ge, Sn などを中央元素に有するピンサー型三座配位子前駆体の合成法を確立し、それら配位子前駆体と既存のロジウムおよびイリジウム錯体との反応から、目的としたSi, Ge, Sn を三座配位子骨格に組み込んだ PEP 型錯体の合成を達成している。これらの成果は今後のアンモニアの活性化および触媒反応の開発へと繋がる重要な成果と捉えている。また、四座配位子を有する錯体では Si, Ge, Sn は強いσ電子供与性配位子として機能し、さらに強力なトランス影響を発現することを明らかにできた。これらの結果は、昨年の計画書に記した研究指針が確かであることを示すものであり、今後の研究の展開のための重要な知見となるものである。E-CH3結合 (E = Si, Ge,) は、中心金属との間に強い相互作用が誘起されない上に、比較的結合エネルギーが高いことから、一般にその切断反応は進行しない。我々の合成した配位子前駆体では、リンのキレート効果によって、E-CH3 結合が中心金属と相互作用しやすい位置に固定され、E-CH3 結合の切断反応が進行したものと考えられる。その結果は、E-CH3 切断反応を含んだ触媒反応の開発に関して重要な知見を与えるものと考えている。σ電子受容性(Z型)配位子は、X型およびL型配位子とは異なる反応性を遷移金属錯体に付与できるものと期待される。しかしながら、Z型配位子の化学は世界的にも依然として錯体合成の段階のレベルに留まっている。我々の得た Z 型配位子の機能に関する知見は、今後のZ型配位子の化学の進展に大きく寄与するものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
Si, Ge, Sn などを中央元素に有する PEP ピンサー型配位子 (E = Si, Ge, Sn) を有するロジウムおよびイリジウム錯体の合成法を確立することができた。また、Si, Ge, Sn を含む四座配位子を有するロジウムおよびイリジウム錯体を合成し、それらの特長を評価することで14族元素が遷移金属錯体の反応性に与える影響を評価することができた。これらの知見は、今後の触媒開発を行う上での重要な知見となるものであった。現在、次段階として、サイクリックボルタモグラム CV や詳細な密度汎関数理論 DFT を用いて、合成した新規遷移金属錯体の電子状態の詳細を明らかにしている。今後はそれらの知見を基にアンモニアとの反応を検討し、さらには触媒反応の開発に着手する。電子受容性ホウ素配位子を有しながらもWilkinson 型錯体とほぼ同様の構造を有するロジウム錯体の合成を達成した。Wilkinson 錯体は様々な反応の触媒として機能し、有機金属化学において最も重要な錯体の1つである。そのため、我々の合成した錯体は、触媒反応において Z 型配位子が与える影響を評価するための良いプローブになるものと考えている。Wilkinson 錯体が触媒として機能する反応を、我々の新規錯体を用いて検討する。それらの結果を基に、触媒反応におけるZ-型配位子の役割(機能)に関する重要な情報が得られるものと考えている。また、研究を推進するとともに、積極的に研究を学会および学術論文での発表に力を注力する。有機金属化学および典型元素化学の国際学会に参加する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
引き続き研究を推進するため、主に薬品試薬および実験器具(ガラス器具、真空ラインの備品)の購入に研究費を利用する予定である。配位子の原料であるホウ素化合物(三塩化ホウ素、ジクロロフェニルホウ素)、ゲルマニウム化合物(四塩化ゲルマニウム、テトラメトキシゲルマニウム、ジメチルジクロロゲルマニウム)、リン試薬(ジシクロヘキシルホスフィン、ジイソプロピルクロロホスフィン、ジフェニルホスフィン)、オルトヨードブロモベンゼンが比較的高価である。それに加えて、貴金属塩(塩化ルテニウム、塩化ロジウム、塩化イリジウム、塩化パラジウム)もまた高価であるため、試薬代に関する予算を多めに計上している。さらに研究成果を発信するために学会および学術論文のための費用も計上する。学会や投稿論文等での成果発表は,本研究を世界に発信するために不可欠であると考えている。本年度には、世界にも有機金属研究者や典型元素研究者が一堂に会する国際学会がいくつか開かれる予定となっており、それらの学会での発表が重要であると考えている。現在のところ、有機金属化学(International Conference on Organometallic Chemistry 25th 於:ポルトガル、リスボン)および典型元素化学 (International Conference on Heteroatom Chemistry 10th 於:京都) の国際学会に参加する計画を立てており、これらの参加費および旅費を計上する。
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