2012 Fiscal Year Research-status Report
核酸アプタマーを用いた超高感度電位計測バイオセンサーによる腫瘍マーカー検出
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23750079
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
合田 達郎 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (20588347)
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Keywords | アプタマー / 腫瘍マーカー / タンパク質 / ラベルフリー検出 / バイオセンサー / 電位計測 / 自己組織化単分子膜 |
Research Abstract |
電界効果トランジスタ(FET: Field Effect Transistor)の原理によるラベルフリーで高感度な電気計測技術を応用して、核酸アプタマーを用いた高感度電位計測バイオセンサーによる腫瘍マーカー検出に関する研究をおこなった。これは癌にまつわる腫瘍マーカータンパク質(VEGF)の検出を簡易・迅速かつ低コストに達成する基盤技術を提供することで、従来のイムノアッセイに代わる超高感度タンパク質センシング、プロテオミックス解析、翻訳後修飾解析のための新たなプラットフォームを提示する事を目的としている。 実施計画に基づき、昨年度は、核酸アプタマーの分子設計および電極表面への核酸アプタマープローブの固定化方法・固定化密度を検討した。また、材料表面への非特異的吸着に起因するノイズ信号を低減するための電極表面の改質を行い、高感度な検出を実現する条件を見出した。 そこで、本年度は、マイクロアレイ電極に固定化した核酸アプタマーによるタンパク質の高感度電位計測バイオセンシングに取り組み、トロンビン、リゾチーム、CRPの、三種類のモデルタンパク質の検出に成功した。これは、抗体に比べてサイズの小さい核酸アプタマーを分子リガンドとして用いて、電極近傍に形成されるデバイ長の範囲内でタンパク質を選択的に捉えることにより、タンパク質の電荷を直接検出するという概念を実現した最初の例である。また、これらのタンパク質は、10%の血清存在下という、夾雑物が混入している条件でも特異的なシグナルを得ることが出来た。そこで、次に、リアルサンプルとしてヒト血清から抽出したVEGFの定量測定をおこない、センシングの感度・特異性を検討した。電位計測によるVEGFのラベルフリー検出には成功したものの、検出限界は数nMと、患者の血液検体を用いるにあたっては感度がやや不十分であり、検出限界をあと1~2桁高める必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の目標として、リアルサンプルでのVEGF定量測定を掲げ、健全なドナーのヒト、または哺乳動物種全血から血清を分離したサンプルを使用する予定であった。そこで、実サンプルを用いて定量測定をおこない、センシングの感度・特異性を検討することはひとまず達成した。感度が不十分な場合は、前処理としてサンプル精製および濃縮を検討する予定であったが、時間の関係でこれらの評価は行うことが出来なかった。良好な結果が得られた場合は、申請者の所属する大学の医学部研究者との連携をとり、前臨床データの収集に向けた取り組みを開始する予定であったが、これらの検討は次年度以降に持ち越しとなった。 また、集積化デバイスの作製と機能評価を開始することになっていたが、これらは達成した。アレイ化金電極は、スクリーンプリント技術や金スパッタによる薄膜形成とフォトリソグラフィ法によるパターニングによって作製した。多チャンネル同時測定による精度・再現性の向上を実現した。
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Strategy for Future Research Activity |
検出システムの高感度化に取り組む。実際の応用を考慮した場合、サンプルの前処理がない方が好ましい。したがって、センサー自体の高感度化を目指すのが妥当である。そこで、生体分子と電極表面との親和性を高めるために、両者の間で多価の結合が形成されるような界面の創製を試みる。これまでにVEGFの異なる部位(エピトープ)に結合する核酸アプタマーが報告されている。これらのアプタマーを直列あるいは並列に配列した分子リガンドを有する電極表面を作成し、標的のVEGFを二点以上で補足することにより、センサーの高感度化を目指す。これらの方法は、既存のアプタマー配列を再活用する試みとも言え、新たなアプタマー配列を探索するよりも簡便・迅速・低コストな解決法であると言える。高感度化が実現すれば、次に、患者の検体を用いた評価を行い、腫瘍マーカーのラベルフリー電位計測技術の有効性の有無を確認する。 また、学理として興味深い、核酸プローブの高機能化も検討する。前述した異なるアプタマー配列をつなげたシリアル解析や、ヘアピンアプタマーによるリガンド分子に対する刺激応答性の付与、標的分子検出に伴うロジックゲート信号生成についても検討する。異なるアプタマー配列をつなげたプローブの合成に関しては、anti-VEGFアプタマーと例えば、VEGFが腫瘍マーカーとして有効とされている肺がんや卵巣がんにおける腫瘍マーカーに対するアプタマー配列と組み合わせることで、がん判定、予後診断の精度向上に役立つと考えられる。また、異なるアプタマー配列を直列につなげると、原理的には2段階の信号が得られることから、いわゆるロジックゲートのような機能を創出できるか否かも、学術テーマとして取り組んでみる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
高感度電位計測をはじめとした一連の電気化学測定装置、蛍光顕微鏡、分析装置、生体サンプル使用設備はすべて所属研究所に現有である。つまり、研究の遂行にあたり必要とされる半導体パラメータアナライザ、ポテンショスタット、インピーダンスアナライザ、 周波数特性測定装置、リアルタイム電位測定装置、リアルタイム多チャンネル電位測定装置、および、表面構築に必要なプラズマワッシャー、スパッタ、構築した表面の評価に用いる分光エリプソメーター、ラフネス解析装置はすでに整備されている。 したがって、研究費の用途としては、試薬・ガラス器具類・装置消耗品など必要不可欠な経費に充当する。また、全血などのリアルサンプルを購入・取得する費用に使用する。 また、関連する学会に参加して研究成果を発表するための旅費や、論文作成・投稿費用、成果発信のための費用等に用いる予定である。
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