2011 Fiscal Year Research-status Report
ポリグルタミン蛋白質によるミトコンドリア膜構造・ダイナミクス障害の分子機構解明
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23770108
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
伴 匡人 久留米大学, 分子生命科学研究所, 助教 (00579667)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ポリグルタミン / ミトコンドリア / 膜融合・分裂 / コンフォメーション変化 / 会合体形成 / リポソーム |
Research Abstract |
代表的なポリグルタミン病であるハンチントン病においては、ポリグルタミン鎖の伸長が原因蛋白質ハンチンチンの機能を阻害または、活性化するとされているが、直接蛋白質の構造変化と機能を関連づけた研究例は少なく、詳細な解析が求められている。 平成23年度は、大腸菌で発現したモデル・ポリグルタミン蛋白質を使い、付加したポリグルタミン鎖の数が、ポリグルタミン蛋白質の物性に与える影響を解析した。 モデル・ポリグルタミン蛋白質のN末端には、チオレドキンが付加しているので、インスリン還元実験から、モデル蛋白質の活性を調べた。その結果、付加しているポリグルタミン鎖の数に依存して、その活性が低下することが分かった。また細胞毒性の強いβシート構造をもつモデル蛋白質では、チオレドキシン活性がさらに低下することが明らかになった。このことから、ポリグルタミン鎖の付加により、蛋白質の機能が影響を付けることが示唆された。次にチオレドキシンのトリプトファン残基の蛍光スペクトルを測定したところ、ポリグルタミン鎖の数に依存して、蛍光強度の増大が観察された。さらにαヘリックスとβシートコンフォメーションのポリグルタミン蛋白質の蛍光スペクトルを比較したところ、極大波長の短波長側への移動が観察された。トリプトファン残基は、チオレドキシンの活性中心近くに位置することから、伸長したポリグルタミンはチオレドキシンの活性中心へのインスリンの結合阻害し、結果として活性低下につながることが考えらえる。またαヘリックスとβシートへのコンフォメーション変化により、チオレドキシンの活性中心がより疎水的環境へ移動したことが考えらえる。この実験結果より、伸長したポリグルタミン鎖が、蛋白質分子全体の構造及び機能へ強く影響を与えることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、(1)ミトコンドリア膜を模したリポソーム上でのポリグルタミン蛋白質のコンフォメーション変化及び会合体形成挙動の解析、(2)リポソーム膜構造・膜融合ダイナミクスに与える影響、(3) モデル細胞中のミトコンドリアの形態及び膜構造に与える影響についての検討し、ポリグルタミン病におけるミトコンドリア障害の分子機構を明らかにすることを目的としている。研究を始めた当初は、ポリグルタミン蛋白質の凝集性のために、実験を行う度にポリグルタミン蛋白質の精製を行う必要があり、なかなか研究を進めることができなかったが、溶媒組成の検討により凝集を低く押さえることができ、効率よく研究を進めることができるようになった。研究目的(1)は、様々なリポソーム組成を試したが、ポリグルタミン蛋白質の会合体形成挙動については有意な差が認められなかった。しかしながら、ポリグルタミンの数やコンフォメーション変化が、モデル蛋白質の構造や活性が大きく変化することを明らかにすることができたので、研究目的(2)に有益な情報をもたらすと考えられる。平成24年度は、ポリグルタミン蛋白質が、ミトコンドリアダイナミクスへの影響を明らかにすること主眼の一つとしており、現在、ミトコンドリア融合・分裂に関与するGTPaseのリコンビナント蛋白質の発現・精製法を構築している。まだ大量培養の段階ではないが、スモールスケールでのリコンビナントGTPaseの発現・精製に成功している。去年度の途中より、福井大学から久留米大学へ異動したが、久留米大学ではミトコンドリア形態制御機構の解明を目指した研究を行っており、ミトコンドリア研究の観点からみた議論が可能になり、平成24年度に行う研究目的(3)に関して、よりよい進展が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
最近、異常伸長ポリグルタミンが、分裂GTPase Drp1と結合することにより、そのミトコンドリア分解活性を促進し、ミトコンドリア形態異常、ひいては細胞の機能障害を誘発することが報告されている。ミトコンドリアの形態異常は、実際にハンチントン病患脳にも観察されることから、ハンチントン病の発症に、ミトコンドリアが深く関連すること考えらえている。このミトコンドリアの異常分裂が注目されているのは、ポリグルタミン蛋白質だけではなく、アルツハイマー病に関連するamyloid β やパーキンソン病に関連するα-シヌクレインもDrp1と結合し、ミトコンドリア分解を促進することが示唆されており、Drp1によるミトコンドリアの異常分解が、アミロイド線維が関連する神経変性疾患に共通した疾病発症機構と考えられ始めているからである。 平成24年度は、ポリグルタミン蛋白質が、ミトコンドリア膜ダイナミックスに与える影響を明らかにするために、ミトコンドリア融合に関連するGTPase MfnとOPA1、分裂に関連するGTPase Drp1のリコンビナント蛋白質を発現・精製し、ポリグルタミン蛋白質がGTPaseの物性に与える影響を解析する。融合・分裂GTPaseの機能発現には、会合体形成とGTPase活性が必須であるので、ポリグルタミン蛋白質がそれらの物性に与える影響を調べる。さらに、リコンビナント蛋白質を使った研究から得た結果を基に、培養細胞を使った実験を行い、リコンビナント蛋白質で得られた結果が、生理的に意味があるかどうかを検証する。ポリグルタミン蛋白質の細胞毒性は、そのコンフォメーションにより、大きく変化するので、どのコンフォメーション状態がGTPaseの物性に影響するかを明らかにすることで、現時点では解明されていない異常伸長ポリグルタミン蛋白質による細胞障害の分子機構解明を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は以下のことに研究費を使用する。物品費:融合・分裂GTPaseの機能解析に必要となるマイクロプレートリーダや、試薬・ガラス器具等の購入旅費:6月末に名古屋で開催される第12回日本蛋白質科学会年会への参加及び、GTPaseの研究を行う上での研究協力者との打ち合わせ
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