2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23790357
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
日野原 邦彦 東京大学, 医科学研究所, 特任助教 (50549467)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | HRG / ErbB / HER / PI3K / NF-κB / breast cancer stem cells / sphere |
Research Abstract |
乳癌幹細胞はEGFなどを加えた無血清培地による浮遊培養を行なうと、sphereという直径100μm程度の球状浮遊細胞塊を形成するが、これまでの解析から、このsphere形成に転写因子NF-κBの活性が必要であることを見出している。本研究では、転写因子NF-κBがどの様に乳癌幹細胞の維持に関わっているかを明らかにすることで、乳癌幹細胞維持機構を包括的に理解することを目指している。そこでまず今年度は、sphere形成過程においてNF-κBが活性化するメカニズムを解析した。まず、乳癌の手術摘出検体から得られた細胞を使ってsphereを形成するための条件を詳細に調べた結果、ErbB3受容体型チロシンキナーゼのリガンドであるHRGが癌幹細胞集団のsphere形成を促進することを見いだした。また多くのヒト乳癌細胞株でもHRGがsphereの形成を促進する働きがあることがわかった。さらに、HRG下流のシグナル伝達経路について調べたところ、HRG刺激によりErbB3受容体とErbB2受容体がヘテロダイマーを形成し、その下流でリン酸化酵素であるPI3K/Aktを介してNF-κBが活性化することがわかった。PI3KとNF-κBを抑制するとsphere形成が阻害されることから、HRGはPI3K/NF-κB経路を介してsphere形成を促進していると考えられた。また、MCF7細胞はNF-κBの抑制型mutantであるIκBαSRを強制発現させると、免疫不全マウスにおける腫瘍形成能が低下することから、NF-κBが乳癌幹細胞による腫瘍発生を制御していることが示唆された。これらの知見はErbB/PI3K/NF-κB経路による癌幹細胞制御機構を明らかにしたものであり、今後PI3KやNF-κB下流の標的遺伝子を明らかにすることで、癌幹細胞標的療法の確立につながることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究からは、乳癌幹細胞維持においてNF-κBが活性化する新たなメカニズムを明らかにすることができた。具体的には、乳癌幹細胞維持におけるNF-κB活性の制御因子として、ErbB受容体型チロシンキナーゼやリン酸化酵素PI3K/Aktを同定することができた。これらの結果は、増殖因子のシグナルと炎症シグナルのクロストークが乳癌幹細胞の維持に重要であることを示しているため、非常に興味深い知見である。また、乳癌臨床検体から乳癌上皮細胞を効率よく得ることや、そこから癌幹細胞集団を単離し、in vitroにおいてsphere培養を行なう実験系も立ち上げた。この系を用いて様々な遺伝子の解析を行なうことで、多くの乳癌幹細胞関連遺伝子を同定することができると考えている。また、PI3KやNF-κBは多くの標的遺伝子を持つことが知られているため、乳癌幹細胞維持に必要な標的遺伝子を同定するための今後の研究展開も期待される。以上のことから、現在までの研究の進捗としては、おおむね順調に進んでいると考えている。ただし、当初の研究計画に含まれていた転写因子KLF5の解析は、KLF5の良い抗体がないことやKLF5の解析に適した細胞株が少ないことなどから、計画を断念せざるを得なかった。これによりKLF5自身の解析に加えて、KLF5とNF-κBの相互作用の解析ができなくなったことは、非常に残念である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、ヒト乳癌臨床検体から癌幹細胞集団を単離し、in vitroでsphere培養する系を立ち上げている。今後は単離した癌幹細胞集団による腫瘍形成を解析するために、免疫不全マウスを用いたxenograftの系を立ち上げる予定である。また上述のように、PI3KやNF-κBは多くの標的遺伝子を持つことが知られているため、乳癌幹細胞維持に必要な標的遺伝子の同定を試みる。具体的には、HRG刺激により発現変化が起こる遺伝子群の中で、PI3KやNF-κBを抑制すると発現変化が起こらないものを同定することを考えている。これらの刺激条件下にて、1時間ごとの時系列遺伝子発現解析をマイクロアレイにより行なうことで、発現変化をダイナミックに捉えることが可能になり、新たな標的遺伝子を同定することが出来るのではないかと考えている。同定した標的遺伝子についてはsphereアッセイやxenograftアッセイにより、乳癌幹細胞との関連を解析する。また、乳癌幹細胞はグレード3の乳癌に多く含まれていることが報告されていることから、上記解析から得られた新たなPI3Kの標的遺伝子シグネチャーやNF-κBの標的遺伝子シグネチャーが、乳癌のグレードや予後などと相関するかを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度はマイクロアレイ解析を予定しているため、マイクロアレイ実験に関わる試薬類などの調達に研究費を使用する。また、乳癌臨床検体由来細胞によるxenograftの系を立ち上げるために、乳癌細胞単離用試薬や免疫不全マウスを購入する。さらに、マイクロアレイ解析から同定された遺伝子の解析はレンチウイルスを用いて行なう予定であるため、ウイルス作成に関わる試薬類も調達する。解析対象が細胞外分泌タンパクである場合は、そのリコンビナント試薬も購入する。それ以外にも実験に必要な試薬がある場合は、その都度購入していく予定である。
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Research Products
(3 results)