2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23790357
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
日野原 邦彦 東京大学, 医科学研究所, 特任助教 (50549467)
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Keywords | がん幹細胞 / 増殖因子 / 乳がん |
Research Abstract |
乳癌幹細胞はEGFなどを加えた無血清培地による浮遊培養を行なうと、sphereという直径100μm程度の球状浮遊細胞塊を形成するが、これまでの解析から、ErbB受容体型チロシンキナーゼシグナルがsphere形成を促進することを見出している。そこで昨年度は、ErbB受容体下流のシグナル伝達機構について詳細に調べることにより、新たなsphere形成能制御因子を同定することを目指した。まずErbB3のリガンドであるHRG刺激により発現変化する遺伝子群を、時系列にマイクロアレイ解析を行なうことで同定した。その結果約600個の遺伝子群が発現変化することがわかった。これらの遺伝子群をErbB signatureと定義し、乳がん患者の表現型との相関を検討したところ、ErbB signatureは乳がんのグレードや再発、転移などのイベントと有意に相関することがわかった。また、このsignatureにはいくつかの分泌タンパクが含まれていたため、これらのsphere形成に対する影響を乳癌の手術摘出検体から得られた細胞を使って検討した。その結果、IGF1R受容体型チロシンキナーゼのリガンドであるIGF2がsphere形成を促進することを見いだした。また多くのヒト乳癌細胞株でもIGF2がsphereの形成を促進する働きがあることがわかった。これらの発見から、ErbBやIGFを標的としたがん幹細胞標的療法の可能性が示唆されるが、今後IGF2下流の標的遺伝子を明らかにすることで、さらなる癌幹細胞標的療法の確立につながることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究からは、乳癌幹細胞の特徴のひとつであるsphere形成において、ErbBシグナルとIGFシグナルが重要な働きをしていることがわかった。具体的には、ErbB下流で発現変化する遺伝子群が乳がんグレードや再発、転移などを規定している可能性が示唆され、さらにErbB下流ではIGFシグナルがsphere形成能を制御していることを明らかにした。これらの結果は、増殖因子のオートクライン/パラクラインシグナルが乳癌幹細胞の維持に重要であることを示しているため、非常に興味深い知見である。また、これまでに乳癌臨床検体から乳癌上皮細胞を効率よく得て、in vitroにおいてsphere培養を行なう実験系を立ち上げていたが、昨年度はさらに検体組織をマウスへ移植したxenograftを作成する系の立ち上げを行なった。この系を用いて様々な遺伝子の解析を行なうことで、多くの乳癌幹細胞関連遺伝子を同定することができると考えている。また、がん幹細胞維持に重要なIGF2下流の標的分子を明らかにすることで、今後のさらなる研究展開も期待される。具体的にはIGF受容体ががん幹細胞に多く発現しているか?、IGF受容体の発現を抑制すると造腫瘍能が抑えられるか?、IGF下流の標的分子は何か?などの問題点が今後の課題であるが、現在までの研究の進捗としてはおおむね順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにヒト乳癌臨床検体の組織ピースをマウスへ移植したxenograftの系を立ち上げているが、生着する検体数が非常に少ないため、移植検体の数をこなしていく必要がある。これまでに数検体分のxenograftの作成に成功しているおり、この系により効率よくヒト癌細胞の解析を行なうことができるため、今後IGF受容体の解析を詳細に行なっていく予定である。具体的にはIGFとがん幹細胞との関連を直接的に示すことを目的とし、IGF受容体の発現をがん幹細胞分画で調べ、その発現をノックダウンすることによって造腫瘍能が変化するかを検討する予定である。またIGFの刺激条件下にて時系列遺伝子発現解析をマイクロアレイにより行なうことで、HRG刺激下でのマイクロアレイ解析と同様に、新たな標的遺伝子を同定することが出来るのではないかと考えている。また得られたIGF signatureを用いて、乳癌のグレードや再発/転移などのイベントとの相関を検討する。またこれまでのHRG下流の解析からIGFを同定したことで、分泌タンパクによるオートクライン/パラクラインシグナルによるがん幹細胞制御というメカニズムを見出して来たが、IGF下流の解析からも新たながん幹細胞制御機構を見出して行きたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度はマウスxenograftをさらに数検体分作成することを予定しているため、免役不全マウスや移植に関わる試薬類などの調達に研究費を使用する。また、乳癌臨床検体から単一細胞を得るためのコラゲナーゼ実験に使用する試薬類を購入する。さらに、遺伝子ノックダウンの実験はsiRNAやレンチウイルスを用いて行なう予定であるため、これらの実験に関わる試薬類も調達する。解析対象が細胞外分泌タンパクである場合は、そのリコンビナント試薬も購入する。それ以外にも実験に必要な試薬/機器類がある場合は、その都度購入していく予定である。
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Research Products
(7 results)
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[Journal Article] The acquisition of malignant potential in colon cancer is regulated by the stabilization of Atonal homolog 1 protein2013
Author(s)
Kano Y, Tsuchiya K, Zheng X, Horita N, Fukushima K, Hibiya S, Yamauchi Y, Nishimura T, Hinohara K, Gotoh N, Suzuki S, Okamoto R, Nakamura T, Watanabe M
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Journal Title
Biochem Biophys Res Commun
Volume: 432
Pages: 175-181
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] ErbB receptor tyrosine kinase/NF-κB signaling controls mammosphere formation in human breast cancer.2012
Author(s)
Hinohara K, Kobayashi S, Kanauchi H, Shimizu S, Nishioka K, Tsuji E, Tada K, Umezawa K, Mori M, Ogawa T, Inoue J, Tojo A, Gotoh N
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Journal Title
Proc Natl Acad Sci U S A
Volume: 109
Pages: 6584-6589
DOI
Peer Reviewed
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