2011 Fiscal Year Research-status Report
スポロゾイト特異的ロプトリー蛋白質欠損原虫作出によるマラリアの宿主侵入機構の解析
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23790459
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
徳永 順士 愛媛大学, ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー, 研究員 (30596151)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | マラリア原虫 / スポロゾイト / ロプトリー |
Research Abstract |
マラリア原虫の生活環において、スポロゾイトは肝細胞に、メロゾイトは赤血球にそれぞれ寄生胞を形成して侵入し寄生する。この2つの侵入ステージ原虫のみが先端部にロプトリーと呼ばれる先端部小器官を有する事から、その貯蔵分泌タンパク質の細胞寄生への関与が推測される。実際、メロゾイトのロプトリー分子のいくつかは、赤血球侵入時に形成される足場(ムービングジャンクション)に局在する事から、侵入への関与が強く示唆されてきた。一方、スポロゾイトが肝細胞に侵入する分子機構、特にロプトリーに局在する分子の解析は全く進んでいない。 本年度はスポロゾイトのロプトリー分子の同定を試みた。まずは、スポロゾイトで遺伝子発現しているロプトリー分子の探索をRT-PCR法で行った。蚊の唾液腺から回収した成熟したスポロゾイトを用いた場合、解析した12個のロプトリー分子の遺伝子発現は見られなかった。一方、蚊の中腸内のオーシストステージ(中腸スポロゾイト)について解析を行ったところ、12個全てのロプトリー分子の遺伝子発現が認められた。以上の結果から、ロプトリー分子の遺伝子発現はスポロゾイト形成過程に特異的に起こる事が明らかとなった。 更に、これらのロプトリー分子のタンパク質の発現と局在解析を行った。タンパク質の発現と局在解析の為に、10個のロプトリー分子についてはC末端にc-mycタグを融合した遺伝子組換え原虫を作製し抗c-myc抗体を用いて解析を行った。2個のロプトリー分子についてはC末端にGPIアンカーを持つことからタグを用いた解析は困難と予測されたので、特異抗体を作製し解析に用いた。ウエスタンブロッティング法により複数のロプトリータンパク質が実際にスポロゾイトにおいて発現している事、蛍光抗体法・免疫電子顕微鏡法により、これらのロプトリータンパク質がスポロゾイトのロプトリーに局在している事を見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、スポロゾイトのロプトリー分子を同定することを目的として研究を行った。RT-PCRを用いた遺伝子発現解析により12個のロプトリー分子の転写が中腸スポロゾイトにおいて特異的に起こっている事を新たに見いだした。これまでにスポロゾイトのロプトリー分子は明らかにされてこなかったが、その理由は多くの研究者は唾液腺スポロゾイトを遺伝子発現解析に用いていた為だと推測される。実際に我々の研究でも唾液腺スポロゾイトにおいてはロプトリー分子の転写は認められなかった。本研究では中腸スポロゾイトと唾液腺スポロゾイトの両方を用いてスポロゾイト形成過程から成熟するまで経時的に遺伝子発現解析を行った事により、これまで捉えることができなかったスポロゾイトにおけるロプトリー分子の転写を捉えることに成功した。 次に12個のロプトリー分子のタンパク質の発現と局在解析を行った。当初は全ての分子についてC末端にc-mycタグを付加した遺伝子組換え原虫を作製する予定だったが、2つの分子がC末端にGPIアンカーを持つと予測されたことから、これらの分子については特異抗体を作製することにした。10個の分子については予定通りc-mycタグを付加した遺伝子組換え原虫を作製することにした。これまでに全ての遺伝子組換え原虫および特異抗体の作製に成功している。抗myc抗体または特異抗体を用いたウエスタンブロッティング法により、現時点で10個のロプトリータンパク質がスポロゾイトで発現している事を確認した。更に蛍光抗体法・免疫電子顕微鏡法で局在を解析したところ、それらのうち8個のロプトリータンパク質がスポロゾイトのロプトリーに局在することを見いだした。以上の研究によりこれまで明らかになっていなかったスポロゾイトのロプトリー分子を新たに複数個同定することに成功し、本年度の目的を達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、複数個の新規スポロゾイトロプトリー分子の同定に成功した。今後は、これらのスポロゾイトロプトリー分子の機能解析を以下の方法で行う。1.標的タンパク質欠損原虫の作製 我々のグループで開発したプロモーター領域をスポロゾイト期に発現しない他の遺伝子のプロモーター領域と置換することによりスポロゾイト期特異的に標的タンパク質の発現を抑制する技術を用いて、スポロゾイト時期特異的発現抑制原虫を作製する。RT-PCR法で各ロプトリー分子の遺伝子発現がスポロゾイト時期特異的に抑制されていることを確認する。また各ロプトリー分子に対する特異抗体を作製し、ウエスタンブロッティング法によりロプトリータンパク質がスポロゾイト期特異的に発現抑制されていることを確認する。2.スポロゾイトにおける新規ロプトリー分子の機能解析 作製したスポロゾイト時期特異的発現抑制原虫の表現型を野生型と比較することにより、各ロプトリー分子の機能解析を行う。スポロゾイトの標的細胞である肝細胞への寄生能/感染能を肝由来培養細胞(in vitro)やネズミ(in vivo)を用いて詳細に解析することにより、ロプトリータンパク質がスポロゾイトの肝細胞への寄生に関与するのか否か評価する。これらの分子が肝細胞への寄生に関与することが明らかになれば、寄生のどの段階に関与するのかライブイメージングの手法で更に解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の予算のうち約24万円を次年度へ繰り越す。繰り越し金が発生した理由はマラリア流行地であるタイ国への旅費を計上していたが、タイ国の洪水により渡航を中止せざるを得なかった為である。本年度の繰り越し金および次年度の科研費を合わせて、上記の研究推進方策を実施する為の研究費として使用する。 研究を実施する為の試薬・消耗品に科研費の大部分を使用する。また研究成果を発表する為の学会参加旅費として残りの科研費を使用する。
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