2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23790489
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
宇田 晶彦 国立感染症研究所, 獣医科学部, 主任研究官 (80392322)
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Keywords | 野兎病 / 野兎病菌 / Francisella / 病原性 / 病原因子 / 感染症 / 人畜共通感染症 / Pathogen |
Research Abstract |
研究目的 野兎病菌(Francisella tularensis)は極微量の菌数で宿主のマクロファージに感染・増殖後、致死性の敗血症を引き起こすグラム陰性桿菌である。本菌は極めて高い感染性と致死性を持つことから感染および発症機序を解明することは極めて重要である。これまでに野兎病菌SCHU株由来の弱毒株(マウス非致死性;SCHU P5)および強毒株(マウス致死性;SCHU P9)を作出した。両者の全ゲノム配列の比較解析の結果から、弱毒株はpdpC遺伝子中央に1塩基欠損が認められ、変異型PdpCタンパク質しか産生できない事が明らかとなっていた。この弱毒株はマクロファージにおける増殖が強毒株と比較して劣り、マウスに接種しても発症に至らなかった。そこで本研究は野兎病菌PdpCタンパク質が病原性に関与している事を明らかにすると共に、PdpCタンパク質の病原性領域を同定する事を目的とした。 研究経過と成果 (1)強毒株由来pdpC欠損株と弱毒株に野生型pdpC遺伝子相補した株(相補株)の作出および病原性に関する検討。野兎病菌pdpC遺伝子が病原性を規定しているのか否かを検討する為に、pdpC欠損株および相補株を新たに作出し、マクロファージおよびマウスを用いて病原性を評価した。この結果、pdpC欠損株は病原性が消失し、相補株は病原性を回復していた。これらの結果から、野兎病菌pdpC遺伝子は病原性に関与している事が明らかとなった。 (2)野兎病菌PdpCタンパク質の病原性領域の決定。様々なC末端欠損PdpCタンパク質発現プラスミドで相補した株を新たに作出し、マクロファージにおける増殖を観察した。この結果、全てのC末端欠損株で増殖能の改善は見られなかった。この事から、PdpCタンパク質の1300-1328残基に病原性領域が存在する事が推測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野兎病菌pdpC遺伝子の病原性関与を明らかにする為に、pdpC遺伝子破壊株(ΔpdpC)を用いて、野兎病菌の高い感染性や病原性発揮機序を明らかにすることを目的とした。 (1)3種類のΔpdpC株はTargeTron(グループIIイントロン挿入による遺伝子破壊システム)を用いて樹立した。これらΔpdpC株はマクロファージにおける増殖能が有意に低下しており、強毒株(LD50=5 CFU)接種マウスは5日以内に死亡するのに対して3種類のΔpdpC株(LD50>10^6 CFU)接種マウスは18日間全て生残した。このことから、ΔpdpC株の病原性は明らかに消失してることが明らかとなった。一方、弱毒株に野生型pdpC遺伝子相補した(相補)株を接種したマウスは全て死亡したが、異常型pdpC相補株接種マウスは18日間健常だった。以上の結果から、野兎病菌pdpC遺伝子は病原性に関与している事が明らかとなった。 (2)野兎病菌PdpCタンパク質の病原性領域を決定する為に、C末端欠損PdpCタンパク質(1328残基中の220、360、460、580、700、820、940、1060、1180、1300番目のアミノ酸をストップコドンに置換)発現プラスミドを作製した。これらのプラスミドで弱毒株を形質転換し各相補株を得た。マクロファージにおける増殖能を測定した結果、全てのC末端欠損pdpC相補株で増殖能は改善しなかった。このことから、PdpCタンパク質の病原性領域は1300-1328番目のアミノ酸に存在する可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
野兎病菌PdpCタンパク質の病原性領域を確認する為に、N末端側から様々な長さに削ったPdpCタンパク質をコードする発現プラスミドを作製後、弱毒株を形質転換し相補株を作出する準備を行っている。今後、これらの相補株を用いてマクロファージにおける増殖能の検討しPdpCタンパク質の病原性領域を決定を行う。 また、野兎病菌pdpC遺伝子の1塩基挿入/欠損に由来する強毒株と弱毒株の差が宿主に与える影響を検討する為に、各株を接種したマクロファージからRNAを精製しマイクロアレイ解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は野兎病菌の高い感染性や病原性にPdpCタンパク質が関与していることを明らかにすることを目的としている。PdpCタンパク質の病原性領域を決定する為に、様々なN末端欠損PdpCをコードするプラスミドを作製した後相補株を樹立し、その病原性評価をマクロファージやマウスを用いて行う。また、弱毒株と強毒株の宿主応答の差異をマイクロアレイを用いて検討を行う。 次年度の研究は、これらN末端欠損pdpC発現プラスミド構築を行う遺伝子工学関係の試薬費およびその病原性を確認する為の細胞・マウス経費や、弱毒株と強毒株の宿主応答解析に用いる試薬・消耗品に使用する。
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