2011 Fiscal Year Research-status Report
慢性疼痛の発生・増強機構の解明を目的とした新規機能性分子の解析
Project/Area Number |
23790651
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
片野 泰代 関西医科大学, 医学部, 講師 (60469244)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 神経障害性疼痛 / プロテオミクス / KOマウス / 行動解析 |
Research Abstract |
慢性疼痛の原因部位は、傷害部位である末梢組織と痛みを認識する脳以外に、末梢からの入力が脳へと伝達する中継地点である脊髄後角が重要であり、当該部位でのシナプス伝達効率調節の解明が鍵となる。これまでに申請者は、神経障害性疼痛の関連分子として、脊髄後角の後シナプス肥厚部(PSD)画分のプロテオミクス解析から2つの分子を同定し、Neuropathic Pain Related Protein-A,-B (NPRP-A、NPRP-B)と名付けた。NPRP-A とNPRP-B の機能と、生体における慢性疼痛の発生及び増強への役割の解明するために本解析を実施する。 in vivoでの機能解析を目的としKOマウスの作製を開始し、本年度、NPRP-A,-Bのflox型マウスを作出した。NPRP-BはCreマウスとの交配によってすでにKOマウスも作出しており、現在行動解析の準備中である。NPRP-Aは現在Creマウスとの交配によってKOマウスの作出を進行中である。NPRP-BのKOマウスは、野生型と同様に発達し、胎生致死ではないことが確認できた。また、NPRP-BはKOマウスを用いた解析にて、抗体の特異性など、今後の解析に重要な解析条件の設定が終了した。本検出条件にて、中枢神経系でのNPRP-Bの分布を明らかにし、脳では特に海馬に多く発現していることを明らかにした。また、脊髄後角においても発現し、粗シナプス画分で濃縮して存在することが確認された。さらに、NPRP-Bは複数の翻訳後修飾による分子量の異なるバンドとして検出されることが確認され、この翻訳がリン酸化によるものであることを明らかにした。さらに、NPRP-BがNMDA受容体のアダプター分子として知られるPSD-95と相互作用することを、in vitroの解析で明らかにし、またこの相互作用がリン酸化によって阻害されることを示す結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、プロテオミクス解析で見出した神経障害性疼痛の標的分子NPRP-Aおよび-Bの機能と生体における慢性疼痛の発生および増強への役割を明らかにすることを目的としている。 よって、本解析の重要な解析材料として、KOマウスの作出を開始した。標的分子の一つであるNPRP-Bの解析はKOマウスの作出も終了し、抗体を用いた解析など予定どおり順調に進んでおり、in vitroでの解析からもリン酸化を介した相互作用など新しい知見が得られている。 さらに24年度で予定している行動解析のための準備がほぼ整っており、すでに予備検討を開始している。 他方、NPRP-Aはfloxマウスの作出が予定より遅れたことから、まだKOマウスの作出が終了していない。しかしながら、23年度の1月にfloxマウスの作出に至り、現在はKOマウス作出に向けたCreマウスとの交配も順調である。 これら両分子それぞれに対する進行状況から、おおむね順調に進行しており、NPRP-Bに関しては期間内に神経障害性疼痛への関与と分子機能を示す充分な知見を示す事が可能になると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、1)リン酸化における相互作用調節機序を明らかにすることを予定している。そのために、相互作用に重要なリン酸化部位の同定と関与を明らかにするために、リン酸化部位の変異体を作製し、培養細胞内での相互作用と細胞内局在に及ぼす影響を評価する。 さらに、このリン酸化がNMDA受容体の活性化に依存して生じるものであるかを検討するために、NMDA刺激に伴うリン酸化の変化を2次元電気泳動法を用いて検討する。NMDA刺激に伴う細胞内局在の変化が、リン酸化部位の変異体でも認められれば、当該部位のリン酸化抗体を作製し、in vivoにおけるNPRP-Bのリン酸化の変化を神経障害性疼痛モデルで解析する。 他方、2)KOマウスを用いた解析では、神経障害性疼痛への関与に留まらず、行動のバッテリーテストを行い、本分子の記憶・学習など神経可塑性における機能を広く解析することを予定している。本分子のKOマウスは世界で初めて作出されたマウスであることから、今後これらの解析から神経研究に重要な情報を得られるものと考えている。 そのために、網羅的行動解析ですでに多くの成果を出している自然科学研究機構・生理学研究所・行動代謝分子解析センター・行動様式解析室 宮川剛教授らとの共同研究を予定している。よって、24年度ではそのために、必要なマウスの飼育費用および解析に必要な人件費等を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画として、まず1)KOマウス作製に伴う飼育費用を予定している。KOマウスおよびfloxマウスの凍結胚を作製するとともに、交配による遺伝子組み換え(FRT領域の欠損によるneomycin耐性遺伝子の除去およびflox領域欠損によるKOの作出)を実施するために、floxマウス、Creマウス、FLPeマウスそしてKOマウスといった複数の系統の維持が必要になっている。よって、関わる飼育費用の占める割合が大きくなる。 2)免疫組織学的解析を実施するために必要な抗体等に関わる費用を予定している。KOマウスにおけるシナプス形成における影響および、神経障害性疼痛に関わるこれまでのCaMKIIなどの関連分子の変化などを解析するために、抗体等の費目が必要となる。 3)NPRP-Bの細胞内局在および相互作用を解析するために必要な細胞培養および生化学的試薬試薬を予定している。NPRP-Bはリン酸化によってPSD-95との相互作用が調節される可能性があることから、当該リン酸化部位の変異体を作製し、細胞内での相互作用を解析する。よって、トランスフェクション試薬および細胞培養に関わる試薬と、相互作用を解析するための抗体およびセファロースといった生化学的試薬の費目を予定している。 4)また、行動解析に必要な人件費を予定している。 5)さらに、解析に進行状況に応じてリン酸化抗体の作製を開始する予定である。
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