2011 Fiscal Year Research-status Report
慢性ストレス形成過程における中枢神経系の機能変化と低血圧発症の関係
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23790756
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
船上 仁範 近畿大学, 薬学部, 講師 (70449833)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 慢性ストレス / 急性ストレス / 視床下部 / 自律神経 / c-Fos / 神経活性 |
Research Abstract |
慢性ストレスの形成過程のメカニズムを検討するためにSARTストレス負荷過程における脳内神経活動の変化を神経活性の指標の1つであるc-Fosタンパク質を用いて,脳内におけるその変動と分布を検討した。急性ストレスとして1時間寒冷刺激を,慢性ストレスとしてSARTストレスを使用した。SARTストレスは,マウス(ラット)を10時から16時の間,1時間ごとに24℃と4℃(-3℃)の環境温度に繰り返し移動させ,16時から翌朝9時までは4℃(-3℃)の環境で飼育,この過程を7日間行い,その後8日目の10時から11時の間,4℃に置くことで作製した。SARTストレス動物は,自律神経失調症モデル動物であり,また慢性ストレス状態を示す。さらに精神,循環器や消化器系などに異常を生じることも報告されている。 急性ストレスでは,視床下部室傍核(PVN)と背内側核(DMH)に特徴的なc-Fos発現がみられ,神経活性の亢進が認められた。慢性ストレス形成過程において,ストレス負荷3日目までにこれら部位の神経活性が徐々に減弱し,それ以降8日目までは非ストレス時の神経活性と同レベルにまで低下した状態を維持することが明らかとなった。つまり,急性ストレスを繰り返し負荷する慢性ストレス(SARTストレス)では,これらの部位で神経活性の亢進は認められなかった。さらに,延髄の淡蒼縫線核(RPa)の神経活性においても同様の現象が生じることを認めた。DMHやRPaは交感神経活性に関与していることから,SARTストレス動物は交感神経緊張低下状態にDMHやRPaが関与していることが示唆された。また,PVNも自律神経活性に影響を与えることから,慢性ストレス状態では恒常性を維持するために重要な自律神経系による制御が破綻していることが推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で示したとおり,H23年度交付申請書に記載した研究目的は,1)慢性ストレスと急性ストレスにおける生体反応の違い,2)慢性ストレスに関与する脳内特定部位の探索,3)慢性ストレス形成過程における脳内神経活動とストレス適応反応の変化 を検討することであった。 これらの1)~3)については,学会発表を3件行う成果を得ており,H23年度の目的はおおむね順調に進展していると考えている。現在,これらの成果については,論文執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
慢性ストレスの形成過程でc-Fos 発現に変化が認められた脳領域の特定部位について,ストレスホルモンといわれているCRF(corticotropin-releasing factor),ノルアドレナリン,セロトニン含有神経などの経時変化及びこれらの神経を介して自律神経系に与えるストレスの影響をin situ hybridization 法及び組織免疫染色法を用いてc-Fosタンパク質との蛍光二重組織免疫染色法により検討する。 自律神経失調症のモデル動物であるSARTストレス動物は不安,痛覚過敏,過敏性腸症候群様症状や低血圧や起立性低血圧を示す。これらの症状は慢性ストレスの形成過程による自律神経系のバランス崩壊により発症したと考えられる。不安には高架式十字迷路テストを,痛覚過敏にはFormalin試験を,腸過敏性症候群にはセロトニンの直腸内投与を,起立性低血圧にはHead-up tilt試験を使用してそれぞれ刺激を与え,脳内のc-Fos発現状況や分布を観察し,慢性ストレスの形成過程で認められた神経活動の変化と比較検討する。またCRFは,ストレスによるこれらの症状に大きく関与していると考えられるのでCRF受容体拮抗薬を投与することによるc-Fosの発現を観察することでストレス関連疾患の症状発現メカニズムへのCRFの関与を検討する。 前年度に引き続き,慢性ストレス形成過程における血圧及び心拍数をテレメトリー法によりモニタリングし,その結果から周波数解析を行うことによりストレス負荷に伴う自律神経活性を評価する。 さらに,これらの研究について,得られた結果を取りまとめ,研究成果の発表並びに論文投稿を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題では実験動物を使用た長期間に渡る実験を実施するため,学生に飼育及び実験の補助をお願いしている。 薬学部では半年間の実務実習を実施するため,研究室に配属された学生数が年間を通して大きく変動することにくわえ,H23年度は薬学部の新棟が建設され,研究室の移転作業(約3ヶ月間(8~10月))があり,研究の進行が一時中断したため,次年度に使用残額が発生した。この次年度使用額については,実験補助のできる学生が多い4-8月中に使用する。 H24年度は,実験動物(マウス,ラット)と実験動物の飼育関連費用として約30万円,テレメトリー装置の送信機(電池の寿命が2-3カ月)の電池交換(年間に2回)に約25万円,試薬として行動実験に約15万円,組織免疫染色法に約40万円,in situ hybridization法に約30万円を使用する。 H24年度研究費は交付額(110万円)と次年度使用額(約33万円)の併せて約143万円であり,H24年度に使用を予定している研究費の使用計画の合計は,約140万円である。
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Research Products
(3 results)