2011 Fiscal Year Research-status Report
児童青年期におけるSSRI投与と自殺リスク―セロトニン受容体発現パターンと衝動性
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23791305
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大村 優 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80597659)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | SSRI / 衝動性 / 5-HT2C / 自殺 / 気分障害 |
Research Abstract |
本研究の主な目的は、児童青年期にserotonin reuptake inhibitor (SSRI)を投与した場合に生じる自殺リスク増加の原因を脳科学的観点から明らかにすることである。具体的には、衝動性と自殺リスクの関係に着目し、適切な動物モデルを開発してSSRIが衝動性に与える影響を発達の各時期に分けて検討した。 幼若ラットを用いた衝動性測定課題の実施には困難が伴うためにほとんど実施されてこなかったが(詳細は計画書参照)、H23年度の研究によりその方法の開発に成功した。この成果により、これまでの衝動性研究を発達研究とリンクさせることが可能となった。 この方法を用いて幼若ラットにSSRIを投与したが、衝動性の亢進は観察されなかった。この結果とヒトの先行知見を合わせて考えると、SSRIによる衝動性亢進効果は単純なものではなく、何らかの交互作用が生じていると考えられた。SSRIによる自殺誘発はあくまで低頻度であることを踏まえると、比較的稀な遺伝的特徴がSSRIの衝動性亢進作用の条件ではないかと推測される。そこで、「5-HT2C受容体の機能に異常がある場合においてのみSSRIの衝動性亢進が生じる」を立て、この検証のための準備を行った。結果、マウスでの衝動性測定課題訓練方法の確立に成功し、5-HT2C受容体欠損マウスの入手・繁殖にも成功し、準備を整えることができた。H24年度は5-HT2C受容体欠損マウスを用いて仮説の検証を進めて行く。 仮説の正しさが立証されれば、児童青年期にSSRIを投与した場合に生じる自殺リスク増加の原因を解明する糸口をつかむことができ、児童青年期の気分障害に対し神経科学的な証拠に基づく治療戦略を立てるための示唆を得ることができる。例えば、5-HT2C受容体遺伝子に変異のある患者に対してのみSSRIの投薬を控えるといった方針も立てることができるようになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究計画は、(1)幼若期動物における衝動性測定課題訓練方法の確立と各発達期でのserotonin reuptake inhibitor (SSRI)の衝動性に対する効果を検証すること、(2)各発達期での5-HT2A/2C受容体の脳内発現量およびその分布パターンを調べること、であった。 (1)については幼若動物における訓練方法の確立に成功し、各発達期でのSSRIの効果を検証する実験も実施することができた。つまり、計画(1)は予定通り完了した。しかし、結果としてどの時期にSSRIを投与しても衝動性の亢進は観察されなかった。別種類のSSRIを試みても結果は同じであった。そこで上記(2)の計画を一旦保留とし、別の仮説「5-HT2C受容体機能に異常がある場合においてのみSSRIの衝動性亢進が生じる」を立て、この検証のための準備を急ぐことにした。これはH24年度に予定していた実験の前倒しでもある。結果、マウスでの衝動性測定課題訓練方法の確立に成功し、5-HT2C受容体欠損マウスの入手・繁殖にも成功し、準備を整えることができた。また、この仮説が論理的に成立するものかどうかを確かめるための予備実験として薬理学的に5-HT2C受容体をブロックし、同時にSSRIを投与する実験を開始している。 以上のように、計画(2)について変更があったものの、計画(1)は完了し、変更・追加された計画は順調に進行していることから、おおむね順調と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
H23年度の研究ではどの時期にSSRIを投与しても衝動性の亢進は観察されなかったことから一部予定を変更、前倒しして、「5-HT2C受容体機能に異常がある場合においてのみSSRIの衝動性亢進が生じる」という仮説の検証のための準備を行ってきた。H24年度は比較的容易にこの仮説を検証する方法として、薬理学的に5-HT2C受容体をブロックし、同時にSSRIを投与する実験を行う。同時に、より直接的な検証として5-HT2C受容体欠損マウスにSSRIを投与する実験を行っていく。遺伝子欠損マウスに学習障害がある場合にはこの試験系は成立しない可能性もあるため、薬理学的実験も行っていく。また、5-HT2C受容体欠損マウスにSSRIを投与した際に衝動性亢進が見られ、しかもその効果が発達初期に限定されて成熟後には見られない場合、5-HT2A, 2C受容体の発現量を発達時期別に調べる必要が出てくる。また、その場合は当初予定していた5-HT2A受容体欠損マウスは特に必要なくなる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実験動物:平成24年度は繁殖動物の飼育費が主要なコストである。特殊飼料:動物訓練用の特殊飼料の概算は、一匹あたり消費量一日約80粒×365日×24匹/ 特殊飼料一箱辺りの餌粒数(5万粒)= 約14箱で、一箱約12千円なので、14×12 = 168千円。しかし学会出張中などは訓練を行わないので、おおよそ150千円として計上した。薬品:各種SSRIの購入経費、in situ hybridization, RT-PCRを行うための各種試薬を計上している。試薬ごとの概算はこの欄に書ききれないため省略するが、これまでの帳簿を基におおよその必要金額を算出している。旅費:研究成果発表ならびに多くの研究者から意見を聞くために、24年度は国内学会1~2回、国際学会1回を予定している。謝金など:動物訓練を申請者のみで行うと、毎日一日中オペラントboxの前にいることになり、情報の収集・論文作成などの業務に支障をきたす。そのため、動物訓練の補助を週に一日、一人を計上する。時給900円×一日6時間×50日=270千円。また、論文作成時の英文校正費用を二回分計上している(約50千円×2)。 なお、H23年度未使用額(152円)となっている分に関してはH23年度に購入した消耗品の支払いに使用する。
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