2011 Fiscal Year Research-status Report
ヒアルロン酸レセプターCD44の断片化阻害による、軟骨細胞の脱分化抑制効果
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23791679
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
高橋 伸典 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (20570196)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | CD44の断片化抑制 |
Research Abstract |
主要なヒアルロン酸(HA)レセプターであるCD44の機能性は、関節軟骨の恒常性維持に極めて重要である。CD44は酵素的断片化によりレセプターとしての機能を喪失し細胞内断片(ICD)を生ずる。CD44の断片化はCell-HA結合の喪失につながり、予想されるICDの転写因子としての機能と共に、軟骨細胞の脱分化に関わっている可能性があると考えて検討を進めている。本研究では、脱分化軟骨細胞を変形性関節症モデルと位置づけ、関節軟骨細胞の脱分化におけるCD44断片化の意義とICD自体の機能解析を行い、断片化抑制による脱分化制御の可能性を探る予定であるが、同時に遺伝学的に均一であるcell lineにおけるCD44の断片化モデルを確立することは、当研究を進めるに当たり重要である。 そこで我々は第一に、HCS細胞(ヒト軟骨細胞様細胞株)においては無刺激下においてもNaturally occurring ICDが軽度発現していることを、CD44のC末端に対する特異的抗体を用いたwestern blottingにより確認した。牛・ヒト関節軟骨細胞においてはIL-1β刺激により、CD44の断片化とICD発現が亢進することは発表済みであるが、HCS細胞においても同様の現象が確認された。 CD44の断片化の導入は細胞膜上のChoresterol-rich domainであるLipid Raftにおいて膜型MMPsにより開始されるため、広域スペクトルMMP阻害剤であるGM6001処理や、CD44のLipid raftへの移行を阻害することで断片化は抑制される。そこで高コレステロール血症治療薬でHMG-CoA還元酵素阻害薬であるSimvastatinを用いて、IL-1β刺激によるCD44断片化の抑制効果を検討したところ、Simvastatinは用量依存的にCD44の断片化を抑制することが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初研究計画においては初代牛関節軟骨細胞を用いて全ての研究を計画したが、大量安定供給が若干困難であり、HCS細胞株を用いたCD44の断片化モデルの確立を第一に行う必要があった。このモデルにおいて、関節軟骨細胞初代培養系と同様にサイトカイン刺激によりCD44の断片化が亢進することが確認された。このHCS細胞株におけるCD44断片化モデルは、以後の断片化抑制研究において重要なツールとなる。 CD44のChoresterol-rich domainであるLipid Raftにおける断片化導入の抑制効果を、広域スペクトルのMMP阻害剤であるGM6001(Calbiochem)や、γ-セクレターゼ阻害剤であるDAPT(N-[N-(3,5-diflurophenyl-acetate)-L-alanyl]-(S)-phenylglycine t-butyl ester、Calbiochem)を使用して検討する予定であったが、それらに加えてより一般的に使用されているstatin製剤を用いることを考えた。これまでにSimvastatinによるCD44の断片化抑制効果が確認されたことから、以後軟骨細胞におけるCD44の断片化抑制効果と脱分化抑制効果の検討をする際には、Simvastatinの効果についても検討することとした。 Cell lineを用いたCD44の断片化モデルを構築することに時間を要したことと、新規アイデアとしてstatin製剤の使用を追加したことから、当初の研究計画における具体的な実験計画の消化速度はやや遅くなっているが、初代培養系細胞に加えてCell lineも実験モデルとして使用して比較的容易に研究を進めることが出来ることを鑑みて、現在のところ概ね順調に研究計画を達成していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
スタチン製剤は現時点でも高脂血症治療薬として臨床で使用されており、その安全性も確立されている。そのためスタチン製剤によるCD44の断片化抑制効果と軟骨細胞の脱分化抑制効果が確認できれば、今後の臨床応用の可能性が開ける。SimvastatinによるCD44の断片化抑制効果がHCS細胞株において確認されたが、これを関節軟骨細胞において再確認する必要がある。またSimvastatinによるCD44断片化抑制効果がsqualeneを介するcholesterol産生抑制によるものなのか、Farnesyl pyrophosphate(FPP)やGeranylgeranyl pyrophosphate(GGPP)を介するRasなどの細胞内シグナル経路抑制に基づくものなのか、その作用機序を明らかにする必要があり、これらの添加によるSimvastatinの作用変化を検討する。 我々の最終目標はCD44の断片化抑制による軟骨細胞の脱分化抑制である。脱分化とは2型コラーゲンやアグリカンなどの発現量低下、それに伴う細胞外マトリックスの減少、またBMPなどのanabolic cytokineに対する反応性低下を指標として用いている。低密度単層培養による軟骨細胞脱分化導入モデルに対する、Statin製剤添加による遺伝子発現変化を検討することと、仮に遺伝子発現変化が認められなかった場合でも、anabolic cytokineに対する反応性が増加していれば、statin製剤とBMPのcombination therapyの有効性と可能性について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
牛関節軟骨細胞の単離の際に使用するPronase/collagenaseの購入、CD44-ICDプラスミドの遺伝子導入に用いるエレクトロポレーション用バッファー、Western blottingやPCRに用いるゲルや試薬など、培養消耗品(培養液、培養皿など)と試薬の購入費が主な使用目的となる。 一方で今年度は研究結果を発表していく必要があり、学会での成果発表のための国内および外国旅費と、最終的には論文投稿のための外国語校正費、その他として印刷費と論文投稿料が必要である。
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