2011 Fiscal Year Annual Research Report
アルツハイマー病に対するアポモルフィン治療の分子機構の解明
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23890150
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
姫野 恵理 九州大学, 医学研究院, 特任助教 (10608508)
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Keywords | アルツハイマー病 / モデルマウス / アポモルフィン / アミロイドβ / リン酸化タウ蛋白 / インスリンシグナリング / DNAマイクロアレイ / 酸化ストレス |
Research Abstract |
培養SH-SY5Y細胞において、アポモルフィン(APO)処理により発現レベルが変動する遺伝子群をDNAマイクロアレイにより解析した。まず、培養SH-SY5Y細胞の10μM APO処理の有無で発現遺伝子プロファイルを比較したが、著明な変化が見られなかった。次に、APOの細胞保護効果は酸化ストレス特異的であるため、0.03mM過酸化水素16時間処理細胞で10μM APO処理の影響を解析した(n=3)。その結果、APO処理により150%以上発現増却した70遺伝子および66%以下に発現低下した55遺伝子を同定した。増加した遺伝子群は、抗酸化ストレス作用、PNA修復、金属結合蛋白、インスリンシグナル関連蛋白などで、低下した遺伝子群は、細胞周期・分裂促進、リン酸化酵素などであった。非常に興味深い点として、発現増加および低下した遺伝子群の内容から、インスリン受容体刺激による細胞内シグナリングが促進している可能性が考えられた。引き続き、インスリンシグナリング促進やリン酸化酵素抑制・細胞周期停止作用が他のドパミンアゴニストと比較してAPOに特異的な作用かどうかを検討中である。 インスリン抵抗性、即ち耐糖能異常や糖尿病とアルツハイマー病(AD)の関連性は最近非常に注目されている。最近の疫学的調査によると、糖尿病は血管性認知症以上にADの危険因子であることが示唆されているが、その分子機序はあきらかになっていない。脳虚血や神経細胞の酸化ストレスを促進することが推察されているが、APOが神経細胞レベルにおいてインスリンシグナリングを促進するとすれば、糖尿病・耐糖能異常の患者では神経細胞のインスリンシグナリングが低下していることがADの発症・促進に係わっている可能性も考えられる。さらに興味深いことに、APOは神経細胞内のアミロイドβ蛋白(Aβ)分解酵素であるインスリン分解酵素(Insulin-degrading enzyme, IDE)の活性を上昇させるが、IDE活性はインスリンシグナルにより上昇することが知られており、このことからもAPOの細胞内Aβ分解促進作用がインスリンシグナルを介している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最初の目的であったAPOのAD治療効果の分子機序解明に関して、DNAマイクロァレイ解析で神経細胞内インスリンシグナリング経路が重要なカギである可能性を見出した。我々は、APOが変異PS1細胞で低下しているプロテアソームおよびIDEの活性を高めることでAβ分解を促進することを確認している。神経細胞内インスリンシグナリング促進はIDE活性上昇やタウ蛋白リン酸化拗制を誘導していると考えられ、AD分子病態において極めて有力な治療標的となる可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度は、特にAPOの抗AD作用の分子機構、特に神経細胞のインスリンシグナリング機構におけるAPOの作用機序の解明を目指す。そのために、神経細胞のインスリン抵抗性が推察される糖尿病モデルマウスと3xTg-ADマウスの掛け合わせを行い、そのキメラマウスにおけるAD病理の促進やAPO治療効果の増強を検証する。また、インスリンシグナリングを特異的に抑制する薬剤や抗体を用いて、APOの治療効果に拮抗するかを検討する。我が国でも、APO注射薬は24年度前半にパーキシソン病治療薬として承認される予定であり、その抗AD効果機序の解明を進めて、APO注射薬によるAD患者の臨床治験につなげていく。
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Research Products
(1 results)