2023 Fiscal Year Annual Research Report
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23H00092
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
町田 洋 学習院大学, 理学部, 教授 (40514740)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | フォノン |
Outline of Annual Research Achievements |
フォノンが熱輸送の担い手である絶縁体において、高温の熱伝導率の大きさはフォノンの比熱、フォノンの速度、フォノンの散乱時間によって決定される。フォノンの散乱時間はフォノンどうしの散乱において散乱前後でフォノンの運動量が保存されないウムクラップ散乱の頻度がその大きさを決める要因となる。フォノンの比熱、速度、散乱時間とそれらの積であるフォノンの熱伝導率は、フォノンのスペクトルに基づく理論計算によってかなり正確に予測が可能となっており、理論計算に基づく様々な熱伝導率の大きさをもつ物質設計も可能になりつつある。 フォノンどうしの散乱において、フォノンの運動量が散乱前後で保存される散乱も存在し、正常散乱を呼ばれる。正常散乱が支配的な場合フォノンはあたかも流体のように熱を運ぶ。このときフォノンどうしの散乱が高頻度に起こるほど熱はフォノンによって固体内を高効率に輸送されるため、熱伝導率の増大がもたらされる。 ウムクラップ散乱や試料境界における散乱(境界散乱)を主としたフォノンの運動量変化を伴う抵抗散乱に着目したフォノンの熱伝導研究は盛んである一方で、フォノンの流体的側面には長い間光が当たってこなかった。本研究はフォノンの流体としての性質を積極的に活用し、熱伝導率の制御を試みることを主眼としている。本年度の研究の第一段階として、測定試料に応力が加えられた状態においても熱伝導率が測定可能な手法の開発を行った。またその過程において同手法の様々な問題点を洗い出すことができた。次年度は本年度に明らかとなった問題点を踏まえて同手法の確立と応力下での熱伝導率データの取得を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フォノンの流体としての性質を積極的に活用し制御することを目的として、測定試料に応力が加えられた状態においても熱伝導率が測定可能な手法の開発を行った。その結果同手法の様々な問題点を洗い出すことができた。いくつかは当初の予想の範疇を超えるものであったが、得られた知見を踏まえて軌道修正できたため、研究は概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の進捗状況を踏まえ修正した方針のもと、測定試料に応力が加えられた状態における熱伝導率測定を実現し、研究目的の遂行を目指す。併せて絶縁体のおけるフォノンの熱ホール効果の発現機構の解明およびフォノン流体と熱ホール効果の相互関係の追求も行い、固体におけるフォノンの熱輸送現象のより深い理解を目指す。
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