2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23H00338
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
白井 厚太朗 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (70463908)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 健太郎 東京都市大学, 理工学部, 准教授 (20792766)
田副 博文 弘前大学, 被ばく医療総合研究所, 准教授 (60447381)
飯塚 毅 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (70614569)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 産地判別 / ネオジム同位体 / トレーサビリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では「データベース無しで地理的な情報を特定可能」「生物種の違いの影響を受けにくい」「部位・保存・加工などによる組成の変化が小さい」という強みを持つ,ネオジム同位体比を用いた水産物の産地判別法を確立することを目的とする. 2023年度は生物軟組織試料の分析手法の検討を進めた.その結果,生物軟組織試料についてはネオジム同位体比分析に必要となる試料量が多くなりがちであるが,特に肝臓については大量の試料を湿式分解する際に脂質を完全に分解することが難しく,その後のネオジム単離工程の障害となることが明らかとなった.今後は乾式分解や事前の脱脂をさらに入念に行うなどして分離作業の最適化について検討する必要があることがわかった. また,2023年度は地質学的特徴を反映する範囲の特定と地理的スケールでの均質性の定量的評価も進めた.伊勢湾の各域からイガイ殻を採取し,イガイ殻ネオジム同位体比の湾内スケールの分布を明らかにすることができた.その結果,伊勢湾沿岸域ではイガイ殻ネオジム同位体比は後背地の地質に影響を受けこれまで報告した結果と整合的なパターンを示したものの,湾内スケールでは湾口の組成が湾奥域の影響を受ける可能性が示唆され,平均化された組成を示している可能性が示された.ネオジム同位体比は日本の他の地域と比較して低めの値を示しており,後背地の古い時代の地質と整合的な結果であった.また,火山や熱水活動の影響を強く受ける鹿児島湾にて貝殻と海水の対応を確認するための試料を採集した.日本・アジア・オセアニアのネオジム分布データベースの構築も進めた.特に,地中海沿岸域,オーストラリアなど複数地点のイガイ殻ネオジム同位体比分布のデータを得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では生物軟組織のネオジム同位体比分析手法を確立する作業が多くの試行錯誤のプロセスが必要となる最も大きなハードルであり,問題点の洗い出しが進んだことはネガティブな結果では無く大きな進捗であると言える.その点で,計画は概ね順調に進んでいると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
今後も継続して,簡易分析法の開発や生物試料の分析法の検討を進める.特に,乾式分解や湿式分解の試薬を複数試すなどして適切な前処理法について検証する.また,地質学的特徴を反映する範囲の特定と地理的スケールでの均質性を定量的に評価するために,イガイ殻ネオジム同位体比の調査範囲を東側に広げて三河湾・静岡県沿岸域の分布について明らかにしていく.また,産地判別するうえで種ごとに課題となる項目の影響についても新たに進める.特に,ニホンウナギの軟組織やナマコを対象とした手法開発について優先的に進める.
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