2023 Fiscal Year Research-status Report
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23K00554
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
山下 真里 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (80756411)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 異体字 / 別字 / 正字 / 俗字 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、もとは異体字の関係にあった漢字が別字となる過程を明らかにし、その要因を考察することである。令和5年度は「弔」と「吊」を対象として研究を行なった。具体的には、主に明治時代の書籍と官報を対象として「弔」と「吊」の使用状況を調査し、別字化の過程とその要因について考察した。 まず、4月~8月は、6名の作家による書籍で1915年までに刊行され、国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧できるものを対象として「弔」と「吊」の使用状況を調査し、別字化の過程について考察した。その結果、1800年代には「とむらう」という意味でも「つる」という意味でも「吊」字が使用される傾向があること、1900年代以降は「とむらう」という意味の場合、「弔」字の使用が増加し「吊」字は見られなくなること、それに対して「つる」という意味では一貫して「吊」字が使用されることが明らかになった。このことから、別字化の契機は、「とむらう」意の場合に「弔」字の使用が増加したことおよび「つる」意の場合に「吊」字の使用が継続したことにあると考えた。この内容は、第73回西日本国語国文学会で口頭発表した。 次に10月以降は1900年までに刊行された官報を対象として「弔」と「吊」の使用状況を調査した。その結果、書籍の場合と同様に、調査資料の中でも初期のものについては「とむらう」意の場合に「吊」字が見られるが、のちに「弔」字へ移り変わること、「つる」意の場合には一貫して「吊」字が使用されることが明らかになった。この結果と書籍での調査結果を総合し、「弔」と「吊」が別字となった過程およびその要因について考察を行った。この結果は、第297回筑紫日本語研究会で口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、書籍における「弔」「吊」の使用状況を明らかにし、別字化の過程を考察できたことに加え、当初は予定していなかった官報を対象とした調査を行うこともできたためである。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度は、「準」と「准」を対象とした調査を開始する予定である。具体的には、「準」と「准」が現代日本語でどのように使い分けられているのかを明らかにするため、現代日本語書き言葉均衡コーパスによる調査を行なう予定である。また、日本における使い分けの歴史的変遷を明らかにするために節用集、国語辞典、漢和辞典など辞書類の調査を行う予定である。 当初は予定していなかったが、令和6年度も引き続き「弔」と「吊」に関する調査を行なう予定である。令和5年度の調査から、「つる」意の漢字表記について、「釣」から「吊」へと移り変わったことがわかってきた。「弔」と「吊」の別字化には「つる」意の漢字表記の変化がかかわっている可能性も考えられる。この点についてさらに検討するため、江戸時代および明治・大正時代の資料を対象として「つる」意の漢字表記について調査し、別字化の要因についての考察を行ないたいと考えている。
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Causes of Carryover |
今年度は書籍の購入が予定より少なく、次年度使用額が生じたが、これは、購入を希望していた書籍(古本)が販売されなかったこと、想定より多くの資料がインターネット上で公開されるようになり、それを調査資料として使用したことによる。 次年度は、購入希望の書籍について、販売状況を確認して可能であれば購入したい。また、インターネットで公開されている資料を調査対象とする場合、資料をプリントアウトして調査を行うことから、当初の予定より多くの印刷用紙やインクトナーカートリッジの購入が必要となる。そこで、そのための購入費用に充てたいと考えている。
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