2023 Fiscal Year Research-status Report
Research on plural multilateralism of China
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23K01270
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
毛利 亜樹 筑波大学, 人文社会系, 助教 (00580755)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 中印関係 / 日中関係 / 国境紛争 / 多国間枠組 / 習近平政権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本科研の申請当初は経済財政分野を中心とする中国の有力地域大国へのアプローチに焦点を当てる予定であったが、インドで7月と9月に聞き取り調査を実施したところ、インド政府が2020年6月に生じた北部ラダック地区ガルワン渓谷での中国軍との衝突を含む断続的な小競り合いを深刻に懸念し、中国が軍事プレゼンスを後退させるまで中国との二国間・多国間関係を発展させないとの外交姿勢を堅持していることが分かった。かつてAIIBやBRICS開発銀行の創設時にみられた中印の経済協力を国境紛争が大きく阻害していることが判明したため、本研究はまず中印国境の緊張関係の分析から研究に着手した。 7月と9月にニュー・デリーで聞き取り調査を実施したところ、(1)対中警戒論が幅広く有識者に共有されていること、(2)国境地帯で中国側を抑止することがインド外交の焦点であり、そのために日米豪との二国間協力やQUADの発展に幅広い支持があることが分かった。 中国側については、インドで中国による一方的なエスカレーションとして理解されている、2021年の陸地国界法制定の背景と内容を検討した。その結果、インドを狙った中国の布石としてインドで警戒される陸地国界法の制定では、習近平への権力集中という中国内政が大きな役割を果たしていることが分かった。
・Sakabe-Mori Aki, "The National Land Boundary Law of the People's Republic of China as Part of Domestic Politics in China", China-Taiwan Study Group, Commentary No.1. Feburary 16, 2024, https://npi.or.jp/en/research/2024/02/16173000.html
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科研の申請当初は多国間枠組みにおける中国の対インド、対日本関係を扱う予定であったが、初年度はインドにて聞き取り調査を実施した結果、インドの対中関係における最大の問題は国境紛争であり、これが対中国の二国間・多国間関係を形成していることが明らかになった。このため、本研究は中印国境紛争の評価から研究に着手した。初年度は、2021年に中国が制定した「陸地国界法」にインドを含む陸上国境における中国の統治強化を検討した。中国では2018年ごろに習近平主席が全ての武装力量を指揮する体制へ変更されているが、インドが対峙している国境紛争に関わる軍事力についても同様に中国の対外行動の形成において習近平への権力集中という中国内政の役割は大きな役割を果たしていることが分かった。これらの検討内容を、中曽根平和研究所から日本語と英語のコメンタリーとして発表した。 Routledgeから刊行する英語共著への寄稿を依頼され、中国のチベット自治区における統治強化と中印国境紛争を担当することになった。研究の初年度で中国の陸上国境に関する法制度とその背景を検討できたので、研究の2年目に進める共著論文の執筆でチベット自治区における村落建設を検証する際の基礎を一定程度作ることができた。今年度取り組む共著への寄稿論文でも、引き続き中国国内政治がどのようにインドとの国境紛争を刺激しているのかに焦点を当てる。 また、初年度にRAを雇用して中国語資料や関連報道の収集を支援してもらったことで、研究2年目の寄稿論文の執筆に使用できる中国側有識者の対インド認識の情報収集が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は、Routledgeより出版予定の共著への寄稿論文の執筆に主に注力する。インド側は国境地帯における中国の動向を対インドの対外行動として解釈するが、中国側では、習近平への権力集中のための制度変更が行われてきており、純粋な対インド政策としては理解し難い部分も大きい。このため今年度は、昨年度行った陸地国界法の検討を国境地帯でのインフラ建設にも広げつつ、チベット自治区における村落建設にも着目する。これにより、習近平政権の目指す国内支配の強化が国境紛争の重要な推進要因であることを論証する。 今年度は文献調査とインドでの聞き取り調査を実施し、10月末締切の共著のドラフト提出に取り組む。現在、チベット自治区の村落建設に関わる中国政府の公開された政策文書、研究論文、報道を収集し、順次読み込みんでいる。7月末に共著の執筆陣で中間報告会に参加し、ドラフトの中間報告を行う。8月までにインドへ再度、中国による国境地帯のインフラ整備に焦点を当てた聞き取り調査を行う。10月末にドラフトを提出。査読結果が戻るまでは、最終年度に取り組む予定の、中国がルールや規範の制定者としての役割を果たそうとしている国際制度の有力事例を検討する。出版社による査読結果が戻り次第、年度の後半はドラフトの修正に取り組む。
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