2023 Fiscal Year Research-status Report
脳内免疫系制御による末梢神経障害へのリハビリテーション介入技術の創出
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23K10449
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
三河 須美子 浜松医科大学, 医学部, 助教 (70359743)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森本 浩之 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 助教 (10847453)
浅井 勇人 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 研究員 (30972666)
植木 孝俊 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (60317328)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 正中神経挫滅 / リハビリテーション介入 |
Outline of Annual Research Achievements |
R5年度では、vモデルラットにて強制運動負荷が胃でのghrelin産生に及ぼす影響の検討を行い、次に、側坐核における末梢神経障害によるミクログリア活性化の病理と、運動がghrelinの産生増進しミクログリアの活性化を抑制する分子機序を解明した。 成獣ラット(8週齢オスWistarラット)にて、正中神経を剖出後、ピンセットで挫滅することにより末梢神経障害モデルラット(正中神経挫滅モデルラット)を作出した。そして、手術直後、1日、7日、10日、14日後にリハビリテーション介入群、対照群で、筋力(握力)回復をラット用握力測定装置により、手指の精緻制御機能の回復を2分間の餌ペレット把持回数により評価した。リハビリテーション介入は、介入群ラットをトレッドミルに乗せ、5分間運動、5分間休憩、5分間運動、5分間休憩、5分間運動の反復運動を手術1日後より毎日1セットずつ14日間、課した。 ここでは、手術1日、7日、10日、14日後(各日のリハビリテーション介入前)に、ラットから血液を採取、脳を剖出し、血中の活性型ghrelin(アシル化ghrelin)濃度をELISAで、側坐核を含む脳内ミクログリア活性化動態を抗Iba1抗体と抗CD68抗体による免疫組織化学的染色で、側坐核の炎症反応に伴うTNFα産生をELISAで解析することにより、リハビリテーション介入が消化管からのghrelin産生に及ぼす影響、ghrelinの産生増進と側坐核ミクログリア活性化並びに側坐核の炎症反応との連関を検討した。そして、ghrelin産生、側坐核の炎症反応抑制、上記手指の精緻制御機能(餌の把持)の相関を解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中神経挫滅モデル動物にて手指制御機能の早期回復を促進したと考えられた。従って、本研究では、身体活動応答的な消化管でのghrelinの産生増進が、挫滅正中神経支配側の側坐核におけるミクログリアの炎症性活性化を抑制し、正中神経機能回復を早める分子基盤の詳細を検討することとした。 外傷による末梢神経損傷に伴う脳内ミクログリア動態の変化に関する報告はこれまでにない。また、側坐核が脳梗塞後の運動神経機能の回復に働くことは以前に指摘されているが(Sawada M et al., Science, 2015)、側坐核が末梢神経の回復に与ること、末梢神経障害応答的に側坐核でミクログリア活性化が生じ、側坐核がリハビリテーション介入の治療標的となり得ることは報告されていない。他方、腸管ホルモンghrelinが抗炎症活性を持ち、加齢による認知機能障害を改善することなどは報告されているが(Inui A, Nat Rev Neurosci, 2001)、ghrelinによる障害運動神経機能の回復に関する研究は国内外で行われていない。 本研究では、R5年度において、運動によるリハビリテーション介入の作用機序を末梢神経障害モデルラットで検討するとともに、介入の治療標的としての側坐核が末梢神経障害の回復に与る働きを解明することを目的とした。研究遂行のために必要なモデル動物の作出、障害回復のバイオマーカーの動態解析技術の確立、障害回復の分子基盤に作用する薬剤の探索などは既に完了し、進捗状況は順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、R6年度以降に、まず、正中神経挫滅モデルラットへの運動負荷によるリハビリテーション介入が、消化管からのghrelin産生を増進し、脳内ミクログリアの活性化を来す病理を探究する。研究代表者らは、既に、側坐核ではミクログリアがghrelin受容体を特異的に発現することを、抗ghrelin受容体抗体、抗Iba1抗体による免疫組織化学的染色と免疫電子顕微鏡法で観察済みである。ここでは、ラットの側坐核を手術1日、7日、10日、14日後に剖出し、抗CD11b抗体を用いFACSでミクログリアを分離した後、ghrelin受容体へのghrelinの結合によるSirt1の活性化を、Sirt1の脱アセチル化活性の生化学的解析により定量評価することにより、また、ghrelinによるミクログリアの炎症性活性化の抑制を、FACSで分離したミクログリアにおける炎症性サイトカインの発現プロフィールをreal-time PCRで解析することにより、ghrelinが側坐核ミクログリアのghrelin受容体に作用し、末梢神経障害(正中神経挫滅)に起因する側坐核炎症反応を阻害する神経保護活性の分子基盤を解明するとともに、末梢神経障害の回復過程におけるミクログリアの抗炎症活性動態の経時変化を解析する。 さらに、漢方薬の一種である六君子湯を正中神経挫滅モデルラットに投与し、消化管でのghrelinの産生を増進することにより、脳内ミクログリア活性化の抑制と正中神経機能、特に手指の精緻な動きの回復の迅速化への影響を検討する。ここでは、正中神経挫滅モデルラットにて、手術直後から六君子湯を経口投与し、手術1日、7日、10日、14日後に、筋力(握力)回復をラット用握力測定装置により、手指の精緻制御機能の回復を2分間の餌ペレット把持回数により評価する。
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Causes of Carryover |
本研究では、始めに、正中神経挫滅モデルラットにて強制運動負荷が胃でのghrelin産生に及ぼす影響の検討を行い、次に、側坐核における末梢神経障害によるミクログリア活性化の病理と、運動がghrelinの産生増進しミクログリアの活性化を抑制する分子機序を解明する。そして、終わりにghrelin産生を増進する薬剤の正中神経挫滅モデルラットへの投与による末梢神経障害治療の基盤技術の構築を図る。 R5年度では、モデルラット作成が順調に進展し、当初の計画よりも少数のラットで、脳内免疫細胞の活性化の抑制などのリハビリテーション介入の十分な成果を得ることができたため、モデルラットの作成にかかる試薬の購入費用を軽減することができた。余剰の研究費はR6年度以降におけるリハビリテーション介入方法の成果のより網羅的な解析のために使用することとした。R6年度以降には、脳内ミクログリア細胞などの神経免疫系細胞のシングルセル解析などの遺伝子発現プロフィールのより大規模な解析を計画しており、それに研究費を充当することとしている。
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