2023 Fiscal Year Research-status Report
河川魚の流域ネットワーク構造を最新の地球化学分析・遺伝子解析から明らかにする
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23K18539
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
太田 民久 富山大学, 学術研究部理学系, 助教 (60747591)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 拓哉 京都大学, 生態学研究センター, 准教授 (30456743)
飯塚 毅 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (70614569)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 同位体分析 / 遺伝解析 / 生息地選択 / 外来種 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、これまで個別分野として発展してきた遺伝子科学と地球化学の最新技術を有機的に組み合わせ、長良川を舞台に河川魚類の生息地間ネットワークやその時空間変動パターンを推定し、その有効性や発展性を検証することを目的とする。 自然界には、生物の繁殖や成長が、ある生息地や生活史タイプでうまくいかない年に、別の生息地や生活史タイプの個体が補償することで、生息地全体の個体数が、安定的に維持されるというレジリエンス機能が備わっている。つまり、対象生物のレジリエンスを評価する際、生息地や生活史(例:移動性や成長パターン)の多様性が重要となってくる。しかし、多検体および大規模スケールで、これら2つの多様性を同時に評価した研究は極めて少ない。 多くの野生生物は、一つの生息地のみに生息するのではなく、複数の生息地にそれぞれまとまりをもって生息している。そうした状況で、環境変化や収穫・捕獲によって、ある局所集団の個体数が減少した際に、別の局所集団の個体数が増加するというプロセスが働いていれば、生息地全体の個体数変動は安定する。また、野生生物には本来、高成長で早熟型や遅成長で晩熟型、あるいは定住型や移住型といった生活史の多様性がみられる。それら生活史の異なる個体間で、ある生活史タイプの個体が繁殖に失敗した際に、別の生活史タイプの個体が繁殖に成功するといったプロセスが働いていれば、集団全体の個体数変動は安定する。 遺伝子情報には家系情報が刻まれており、近年ではこの家系情報から生物の遺伝子グループ(系群)ごとの個体数(生産性)を推定する手法が発展している。さらに、各系群がどこで生まれ成長したかは、魚の耳石のような肥大成長する組織の同位体比を分析することにより推定可能である。本研究は、これら2つの手法を組み合わせ、生息地や生活史の多様性が維持され、レジリエンス機能が高い生息地間ネットワーク構造を可視化する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに、耳石のストロンチウム同位体分析および遺伝解析により、琵琶湖に生息する移入サツキマスの分布域やビワマスおよび原生の河川残留型サツキマス(アマゴ)との交雑状況を把握することができた。また、長良川においても降海型のサツキマスが河川生活期にメインで利用する支川およびその年変動を推定することができた。そして、そのデータを遺伝解析結果と比較することで、各遺伝グループがどのような支川を利用し、交流しあっているのかを可視化することができると考えている。つまり、昨年度の結果から、魚の生活史や他の生物との相互作用を詳しく調べる上で地球化学的な同位体分析技術と遺伝解析技術を組み合わせることが非常に有用であることがわかってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、データの母数を増やすとともに、昨年度の結果を学会で発表し、国際誌への論文投稿を実施する。
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Causes of Carryover |
本研究の遂行に必須であるレーザーアブレーションMC-ICP-MSの部品が2024年度に更新時期を迎えており、その交換部品が80万円程度と高価なため、50万円を繰り越した。
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Research Products
(1 results)