2022 Fiscal Year Annual Research Report
エネルギー代謝の変化を担う脳―末梢間神経回路リモデリング機構の解明
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21H03387
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
近藤 邦生 生理学研究所, 生体機能調節研究領域, 助教 (90784950)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | エネルギー代謝 / エネルギー恒常性 / 脳ー末梢組織間神経回路 / 仮性狂犬病ウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
脳は体内外の情報を統合し、多数の末梢組織の機能を協調的に制御することで、生体のエネルギー恒常性を維持する。恒常性維持メカニズムにおいては、脳による末梢組織の制御が重要な役割を果たしている。体内外の環境が変化すると、それに応じて脳による末梢組織制御メカニズムも柔軟に変化すると考えられる、しかし、実際に体内外のエネルギー状態の揺らぎに対して、脳から末梢組織へ至る神経回路がどのように対応するのか、その実体については不明である。本研究では、エネルギー代謝の状態の変化に応じた、脳―末梢組織間の神経回路の構造変化すなわち「リモデリング」を引き起こすメカニズムとエネルギー代謝における役割を解明する。 仮性狂犬病ウイルス(Pseudorabies virus:PRV)は神経細胞に感染すると、シナプスを介して逆行的に移動する性質を持つ。すなわち、末梢組織にPRVを接種すると、ウイルスは接種した組織を制御する一連の神経回路に感染する。本研究では、PRVをマウスに接種し、エネルギー代謝に重要な末梢組織である褐色脂肪組織・骨格筋に脳からのシグナルを伝達する神経回路を同定した。次に同様の手法により、寒冷飼育や継続的な自発運動により個体のエネルギー代謝を変化させたマウスにおいて、脳と褐色脂肪・骨格筋を結ぶ神経回路を解析した。その結果、いくつかの脳領域において、末梢組織を制御する神経細胞の数が変化することを見出した。変化した領域はエネルギー代謝を変化させる刺激ごとに異なっていた。これらの結果は、脳領域と生理状態に特異的に脳―末梢組織間の神経回路のリモデリングが生じている可能性を示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は1年目に確立した研究手法を用いて、寒冷環境により飼育して熱産生を促進した場合や、自発的な運動を促してエネルギー消費を亢進させた場合において、脳ー末梢組織間神経回路の解析を行った。その結果、褐色脂肪組織や骨格筋に投射する中枢神経細胞の数が脳領域特異的に変化することを見出した。また、熱産生を促進した場合には褐色脂肪に投射する神経細胞の数が増加し、運動を促進した場合には骨格筋に投射する神経細胞の数が増加したことから、エネルギー代謝が変化した末梢組織に特異的に、それらを制御する中枢神経細胞の数も変化することがわかった。また、寒冷飼育と運動により異なる脳領域の末梢組織に投射する神経細胞の数が変化する傾向が見られ、刺激に応じて脳が柔軟に神経回路を変化させている可能性が考えられた。 これまでの研究から、運動により海馬などでの神経新生が促進されることが報告されていたことから、本研究で見出した脳ー末梢組織間神経回路の変化に神経新生が関わるかどうかについて解析を行った。しかしながら、ウイルストレーサーにより同定した末梢組織投射神経の中に、新生神経細胞はほとんど含まれておらず、脳ー末梢組織間神経回路の変化は別のメカニズムにより制御されている可能性が示された。 神経回路変化の解析と並行して、末梢組織を制御する中枢神経細胞の解析を行い、末梢組織の糖代謝や脂質代謝を制御する新たな神経細胞集団を同定した。これらの細胞集団の関わる神経回路が、エネルギー代謝変化により変化している可能性があり、来年度はこの可能性も検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度はこれまでに見出した脳ー末梢組織間神経回路の変化、すなわちリモデリングのメカニズムの解析を行う。これまでの結果から、リモデリングは脳領域特異的に生じる可能性が示されている。来年度はさらに解析を進め、リモデリングが生じる脳領域を同定する。次に、リモデリングを引き起こすメカニズムの解析を行う。これまでの結果から、リモデリングには神経新生が関わらない可能性が高いため、来年度はシナプス可塑性など神経細胞同士の接合様式が代謝変化により変化する可能性を検証する。そのため、ウイルストレーサー感染細胞における、シナプス可塑性関連因子の発現を解析する。また、ウイルスベクターによる過剰発現系や薬剤投与を介して人為的にシナプス可塑性などを阻害し、リモデリングへの影響を調べる。 並行して、これまでに見出した末梢組織のエネルギー代謝に関わる中枢神経細胞集団について、これらの機能解析をさらに進め、中枢神経系によるエネルギー代謝制御の新たなメカニズムを明らかにする。これらの神経細胞が投射する末梢組織を同定し、神経細胞活性化による糖取込み・脂質取込みへの影響、遺伝子発現変化を解析する。またファイバーフォトメトリー法などにより、これらの神経細胞の活動の変化を解析する。さらに、寒冷飼育や運動などにより、末梢組織の制御様式に変化が見られるかどうかを解析する。 また、リモデリング解析を行うための、ウイルス感染細胞の局在解析に現在ではかなり時間が割かれており、このウイルス感染細胞の網羅的解析を迅速に進めるために、脳の透明化やライトシート顕微鏡を用いた手法の開発にも取り組む。
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