2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22H00628
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Aichi University of the Arts |
Principal Investigator |
阪野 智啓 愛知県立芸術大学, 美術学部, 准教授 (00713679)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩永 てるみ 愛知県立芸術大学, 美術学部, 准教授 (80345347)
中神 敬子 愛知県立芸術大学, 美術学部, 非常勤講師 (10750474)
荒木 恵信 金沢美術工芸大学, 美術工芸学部, 教授 (00381690)
高岸 輝 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (80416263)
龍澤 彩 金城学院大学, 文学部, 教授 (00342676)
井戸 美里 京都工芸繊維大学, デザイン・建築学系, 准教授 (90704510)
本田 光子 愛知県立芸術大学, 美術学部, 准教授 (80631126)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | やまと絵屏風 / 浜松図屏風 / 画中画 / 復元模写 / 二扇縁取屏風 / みがきつけ / 金箔技法 / 雲母地 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、やまと絵屏風の技法を総合的に分析するために、大きく4つの課題を並行して進めている。 ①石山寺縁起画中画「浜松図屏風」の復元については、前科研で雲母地技法を中心として行った復元模写だったが、画中画を再現した結果として中世やまと絵屏風の構図法や屏風構成、屏風裂地、裏地についてのさまざまな気づきがあり、それらについて再分析する研究会と裂地、裏地の再現を試みることで、中世やまと絵屏風の有り様についての検討を進めた。 ②中世画中画の網羅的検証について、12世紀後半から16世紀前半を中世およびその近接する時代とみなし、その時代に該当する絵巻物や掛幅絵伝などを中心に、可能な限りの画中画屏風および障壁画の画像を収集し、画題、様式、構成を軸としてデータアーカイブを作成した。また画中画の展開予想図のCG画像を作成して、分析の補助的材料とした。画中画を検証する前段階で研究組織で検討されていた、鎌倉時代独特の様式ともいえる屏風を二扇単位で縁取った「二扇縁取屏風」の様式が、13~14世紀の画中画では七割以上がそのように描かれていることが判り、本科研では二扇縁取屏風の実態について研究する方向性が固まった。二扇縁取屏風の現存作例は「高野山水図屏風」ただ1点しかなく、なぜそのような様式が鎌倉時代を通じて流通していたのかは詳らかではないため、研究すべき課題として取り上げたい。 ③旧里見家本「浜は松図屏風」の技法研究では、令和4年11月に原本熟覧調査を行い、デジタルマイクロスコープ撮影などを通して技法の検証を行った。紙地、雲母地、銀泥、青色の色材を検討して、その塗布方法と混色を推定して再現した手板の作成を行った。 ④金箔技法調査では、主には近世初期の屏風群を集中的に所蔵する名古屋市博物館で悉皆調査を実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
実績概要で示したように4つの課題を並行的に進行させたが、それぞれで成果をあげつつあり、計画以上に進捗していると考えている。①石山寺縁起絵巻画中画「浜松図屏風」の裏地の検討では、往古の臙脂技法の再現を試みる沓名弘美氏の協力を得て、ラックから色素を抽出することで深い臙脂色を再現することに成功した。臙脂色にこだわったのは、中世画中画では9割以上において屏風の裏地は深い赤色であり、絵巻では朱色と明らかに描き分けており、当時臙脂色の裏地であったことが高い可能性で考えられる。また文様については、非常に大きな鳥襷紋が黒色で表されている例が多く、大きさも他の文様では小さいことから、大紋であることが重要であると考えられる。これについても、伊勢型紙を用いて大紋を再現し、臙脂染による鳥襷大紋の再現を進めている。 ②画中画アーカイブの作成によって、中世における二扇縁取屏風の実態のほか、各時代の画題構成の傾向や、彩色、水墨、画題などの細かな分類が可能になって、今後の中世やまと絵屏風の傾向を分析するのに非常に有用な資料を作成することができた。特に二扇縁取屏風については、画中画において二扇一場面で、さらに異なる画題で構成されるものが散見され、15世紀以降の屏風絵ではまず確認できない表現様式でもあることから、今後更なる追及を試みたい。 ③旧里見家本の最大の課題である水面のきらめく描写について、技法試作を重ねたことにより、描写手順や材料、混色方法、雲母地輝きの保持などの課題についての解決の見通しが立った。 ④名古屋市博物館の屏風群調査を中心に、金箔技法の変遷や成型方法について情報を蓄積することができ、今後の検討資料が充実したことは大きな成果といえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初研究の中心据える予定だった旧里見家本「浜松図屏風」についての技法復元については、令和4年度に原本調査が実施できたこともあって解決の道筋が立ったこともあり、また中心となる雲母地技法についても令和4年6月の文化財保存修復学会における口頭発表によって成果確認ができたため、令和5年度以降では画中画の検討により比重を置き、中世やまと絵屏風としては現存作例が乏しく詳細が不明な鎌倉時代の屏風表現について重点的に検証を試みたい。上述①については復元した赤色地鳥襷大紋の裏地や、さらに裂地の再現も進めて石山寺画中画「浜松図屏風」復元図を、実際に屏風装まで完成させる。中世絵巻に登場する屏風装の姿を再現させて、雲母地による光輝表現効果の検証を行いたい。 ②は二扇縁取屏風の詳細検討を進める。具体的には、「法然上人行状絵図」に登場する二扇縁取の画中画「桜流水図屏風」や「松崎天神縁起絵巻」の画中画「楓雁図屏風」についての詳細検討を行い、画題や表現手法についての分析を試みて再現画作成の準備を進めたい。 ③旧里見家本に加えて、サントリー美術館本「日吉山王・祇園祭礼図屏風」の調査を行い、中世やまと絵屏風の持つ多様な光輝表現の追及を続ける。 ④金箔調査についての成果をまとめて、6月の文化財保存修復学会でポスター発表する。 ①~④の研究成果と、以前に行った「月次祭礼図屏風模本」の復元研究の成果などを統合した研究発表展を、令和6年1月に京都工芸繊維大学工芸資料館で行う予定がある。研究展では復元本「月次祭礼図屏風」、石山寺縁起絵巻画中画「浜松図屏風」再現屏風の展示を中心に、旧里見家本や日吉山王図などの部分技法再現図や各技法の試作体を展示して、総合的に中世やまと絵屏風の技法が網羅できる展示を目指したい。また会期中に中世やまと絵屏風の復元をテーマとしたシンポジウムの開催を令和6年1月6日に計画している。
|
Research Products
(2 results)