2022 Fiscal Year Annual Research Report
Transfer of innovative artistic concepts between Moscow and Berlin: with a focus on Sergei Tretyakov
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22H00650
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
増本 浩子 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (10199713)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
Grecko Valerij 東京大学, 教養学部, 特任准教授 (50437456)
八木 君人 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (50453999)
楯岡 求美 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (60324894)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | アヴァンギャルド芸術 / ドイツ・ロシア芸術交流 / セルゲイ・トレチャコフ / ベルトルト・ブレヒト / セルゲイ・エイゼンシュテイン / ヴィクトル・シクロフスキー |
Outline of Annual Research Achievements |
ロシアの作家・理論家セルゲイ・トレチャコフは、新しい芸術コンセプトをドイツに伝え、ブレヒトらに大きな影響を与えたが、彼の仲介者としての重要性は長らく注目されてこなかった。本研究は、20世紀初頭のロシア・ドイツ間の芸術交流の仲介者としてのトレチャコフの役割を明らかにすることを目的とする。 2022年度はトレチャコフ自身の著作および、トレチャコフと交流のあったロシアとドイツの芸術家たちの著作を分析するとともに、アーカイブなどに残されているロシア・ドイツ芸術交流に関する歴史的資料を調査した。本来の計画ではロシアで調査することになっていたが、ウクライナへの軍事侵攻が続いている状況を考慮してロシア渡航は中止し、代わりにトレチャコフの出身地であるラトヴィアや、具体的な芸術家交流の場となったドイツで閲覧可能な著作と歴史的資料の調査・分析を行った。 シクロフスキーの「異化」の概念をブレヒトに紹介したトレチャコフは、エイゼンシュテインとともにモスクワでブレヒトに京劇を見せて「異化」の実例を示した。エイゼンシュテインは日本語を学び、トレチャコフは中国に詳しかったので、ブレヒトが東洋に関心を持つようになったのも彼らの影響が大きかっただろうと推測できる。このような経緯をまとめ、ドイツで開催された国際会議で発表した。また、アヴァンギャルド研究の第一人者であるコルネリヤ・イーチン教授(ベオグラード大学)が来日したのを機に、アヴァンギャルド芸術に詳しい福間加容学芸員(九州産業大学美術館)の協力を得て講演会「セルビア・アヴァンギャルドとヨーロッパ」を開催し、プロジェクト・メンバーがコメンテーターとして参加した。この講演会では、アヴァンギャルド芸術家たちの国境を超えた交流について確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ロシアでのアーカイブ調査を計画していたが、ウクライナへの軍事侵攻が続いている状況のためロシア渡航を中止し、代替としてトレチャコフの出身地であるラトヴィア(当時はロシア帝国領)に赴いて資料調査を行わざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究はもともとロシアでのアーカイブ調査を計画していたが、2022年度に引き続き2023年度もロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響が懸念される。ロシアでの調査が困難である場合は、ロシア以外の国(たとえばトレチャコフやエイゼンシュテインの出身地であるラトヴィアや、具体的な芸術家交流の場となったドイツ)で歴史的資料の調査・分析を行う。主な対象となるのはトレチャコフ自身に関する資料の他、彼と親交の深かったメイエルホリド、エイゼンシュテイン、シクロフスキー、ブレヒト、ベンヤミンに関する資料である。国内でも、ロシア文学・芸術関係の資料を多く有する早稲田大学で資料を収集し、分析を行う。対面またはオンラインで定期的に研究会を開催し、研究チーム内での情報の共有を図るとともに、資料調査に関する意見交換を行う。また、ロシア文学者ヘンリーケ・シュタール教授(トリーア大学)やロシア・アヴァンギャルドの専門家であるコルネリヤ・イーチン教授(ベオグラード大学)など、海外の研究協力者ともオンラインあるいは対面で意見交換を行う。 ロシア・ドイツ間の芸術交流の事実関係を確認する作業と並行して、ロシア・アヴァンギャルド芸術理論、特にシクロフスキーの「異化」の概念がブレヒトによってどのように受容されたか考察するとともに、トレチャコフの脚本によって製作された映画作品の分析も行う。研究成果は国際シンポジウムや学会等で発表する。
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