2023 Fiscal Year Annual Research Report
初期ヤマト政権の地域統合原理の解明と比較考古学的手法によるその人類史的評価
Project/Area Number |
22H00714
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
福永 伸哉 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 教授 (50189958)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 照彦 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 教授 (10249906)
門林 理恵子 大阪電気通信大学, 総合情報学部, 教授 (70358886)
高田 健一 鳥取大学, 地域学部, 教授 (70403368)
上田 直弥 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 助教 (70823780)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 古墳時代 / ヤマト政権 / 地理情報 / 比較考古学 |
Outline of Annual Research Achievements |
3年計画の2年目にあたる2023年度は、基礎資料の集成に基づく地域分析、フィールド調査、研究ミーティングを主要な作業として、目的に示した2テーマに沿って以下の研究を実施した。 [テーマ1] 初期ヤマト政権段階の地域統合の原理と構造の解明 古墳文化の波及過程について、畿内地域及び山陰地域を中心に資料分析を行った。畿内地域については、猪名川流域の前期古墳(宝塚市長尾山古墳・万籟山古墳・八州嶺古墳・安倉高塚古墳、川西市小戸遺跡ほか)、山陰地域の前期古墳(鳥取市桂見2号墳ほか)の出土資料を分析し、古墳築造を通じた初期ヤマト政権の地域波及が徐々にではなく、急速に及んだ実態を明らかにした。またこの状況を古墳時代後期のあり方と比較して、初期ヤマト政権期の特徴を検討した。フィールド調査によるケーススタディとしては、兵庫県三木市愛宕山古墳(墳長93mの前方後円墳)の墳丘発掘調査を行い、築造時期が古墳時代前期前半に遡ること、墳丘や埴輪の特徴に日本海側と関連がうかがえることなどの新たな情報を得て、加古川を介した南北ルートが初期ヤマト政権の地域把握の上で地政的な意味を持ったことを推定した。 [テーマ2] 初期ヤマト政権の地域統合の特質とその人類史的位置の比較考古学的解明 日本列島の古墳文化と中欧ハルシュタット期及び朝鮮半島三国期の墳丘墓文化の比較を行い、日本古墳時代の墳丘墓築造と社会関係の特徴を人類史レベルで考察した。その成果の一部は、2023年9月にスロベニアで開催された第3回欧州アジア考古美術学会において、'Diversity of the Mounded Tombs of the Kofun Period and its Significance'と題して、代表者福永が発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
[テーマ1]については、近畿西部の播磨地域、山陰地域で古墳築造の波及が急速であったことが実証的にとらえられつつあり、その波及ルートとして本州西部の瀬戸内側と日本海側を南北につなぐ河川地域の意義が明確になってきた。とくに、三木市愛宕山古墳における発掘調査では、その築造時期が従来の学界の理解より約半世紀古い古墳時代前期前半に遡るという新たな知見が得られ、加古川を介したヤマト政権の影響力の早期波及が浮かび上がった。軍事力で徐々に地域を屈服させたと見る『日本書紀』の像とは異なるありかたが、初期ヤマト政権の地域統合原理を示唆していると考えられ、その論理的・実証的提示に向けて、研究の方向性が定まったと言える。なお、愛宕山古墳の発掘調査については、地元教育委員会と協力して現地説明会を開催したほか、マスコミ報道などを通じて、速報的な成果を公表した。[テーマ2]については、コロナ禍により6年振りの対面開催となった欧州アジア考古美術学会にて、墳丘規模と形の多様性によって地域把握を図ろうとしたヤマト政権の「モニュメント戦略」について発表し、日本古墳の持つ特質について会場にて欧州研究者と意見交換を行えたことが、きわめて有益であった。
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Strategy for Future Research Activity |
[テーマ1]については、前方後円墳分布域の南限・北限地域の古墳時代前期の状況を重点的に検討し、近畿や山陰のミクロな実態把握と結合させて、初期ヤマト政権の地域統合原理の解明につなげる。その過程で、政権の影響力の波及ルートと地理的条件の関連を検討する。また猪名川流域の前期古墳の築造動向を分析した総括的な研究報告書を編集する。発掘調査としては、愛宕山古墳の第3次調査を実施し、2023年度の調査で得られた墳丘構造や築造時期についての所見をさらに確認する。[テーマ2]については、各地の墳丘墓文化と比較しながら日本古墳時代のあり方について総括し、論文として公表する。
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