2022 Fiscal Year Annual Research Report
地域学習の構造に関する実証的研究:Community Storyの編集に着目して
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22H00958
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宮崎 隆志 北海道大学, 教育学研究院, 教授 (10190761)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大高 研道 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (00364323)
阿知良 洋平 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (00754722)
吉田 弥生 北海道大学, 教育学研究院, 専門研究員 (10929136)
杉山 晋平 天理大学, 人間学部, 准教授 (30611769)
榊 ひとみ 札幌学院大学, 人文学部, 准教授 (30757498)
岡 幸江 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (50294856)
向井 健 松本大学, 総合経営学部, 准教授 (50756765)
内田 純一 高知大学, 教育研究部総合科学系地域協働教育学部門, 教授 (80380301)
若原 幸範 聖学院大学, 政治経済学部, 准教授 (80609959)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | コミュニティ・ストーリー / クロノトポス / 限界状況 / 文化的記憶 / 民衆意識 / 社会教育実践 / 社会運動 / 物語 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は理論枠の共有と実証分析の方法に関する検討を進めることが課題であった。4回にわかる研究会を開催し、①フレイレの限界状況論における時間論、②バフチンのクロノトポス論、③アスマンの文化的記憶論を手掛かりに、「コミュニティ・ストーリー」の構造についての仮説を検討した。 ①では、「空間の時間化」が重要な概念として浮上した。民衆にとっての日常が展開する空間を生成の相において把握する時に、民衆の時間意識も変化し、未来を志向する可能性が生まれる。時間意識に関して、バフチンはフレイレと同様に、日常生活者の抱える矛盾が明らかにされるとともに、生成の相が意識化され、それにより世界は動き出し、時間は歴史性を持つようになると指摘している(②)。これらにより、日常生活者に内在する矛盾と時間意識の相関に着目する必要性と意義を確認した。 ③しかしながら、歴史性を有する時間に立脚する歴史意識そのものが、その次元に内在する対立の所産であることに留意する必要がある。アライダ・アスマンは、歴史と記憶の二項対立図式を批判し、「住まわれた記憶」としての機能的記憶と「住まわれざる記憶」としての蓄積的記憶の二つの記憶を区分しつつ、両者が補いあって想起がなされると整理したが、その過程では権力的な統制も作用する。ここから、コミュニティ・ストーリーの構成過程における対立とその統一をめぐる文化的闘争の分析も重要課題であることを確認した。 以上の理論的検討を進めつつ、北海道剣淵町における予備調査を実施し、「絵本の里」をキーワードとしたコミュニティストーリーの再編には、自分史や地域史の編纂という前史があることを確認した。総括研究会では、剣淵町の実践過程に即した分析モデルを集団的に構築する可能性を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定では、研究期間の前半期2年間は分析枠組みの共同開発と共有を図ることになっていた。文化的記憶論とクロノトポス論、および限界状況論の検討によって、コミュニティ・ストーリー論の理論的意義については、共有することができた。社会教育実践の分析枠組みとして具体化することが次の課題となるが、これについては藤岡貞彦氏による「下伊那テーゼ」の社会教育実践論としての意味付けを手掛かりに、検討していく予定である。当時の議論では「大衆運動」の教育的側面を踏まえた学習内容編成論の展開が焦点となっていたが、本研究では社会運動と地域生活・日常意識・民衆意識を媒介する社会教育実践論の展開として継受できるという見通しを得ており、当時の議論を民衆思想の構造分析の成果を踏まえて展開する地平に立つことができたように思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画では分担者の担当地域に即した検討を同時並行させることになっていたが、2022年度の理論枠組みを実証分析の枠組みとして具体化するためのケーススタディを集団的に行った方がよいとの合意があり、2023年6月に北海道・剣淵町において予備調査ならびに事例検討を行うことにした。ここでの試論的枠組みは、2023年9月の日本社会教育学会において発表する予定である。 また、理論枠組みの検討はオンラインを利用し継続的に行う。2023年度は、ポール・リクールの時間と物語に関する論考を整理するとともに、デュルケム、アルバックスの集合的記憶論の検討も行う。 剣淵町の事例以外にも、モデルとなるケーススタディを滋賀県東近江市において実施する。東近江市は当初の検討対象には入っていなかったが、図書館が果たした役割を多様な社会運動との関連で整理すること、および実践者が実践を物語る「文法」を確認することによって、クロノトポスとしての地域実践を意味付ける様式を析出することが課題となる。 以上を踏まえて、2023年度末には全国的な比較調査のフォーマットを明確にする予定である。
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Research Products
(1 results)