2023 Fiscal Year Annual Research Report
地域学習の構造に関する実証的研究:Community Storyの編集に着目して
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22H00958
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宮崎 隆志 北海道大学, 教育学研究院, 名誉教授 (10190761)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大高 研道 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (00364323)
阿知良 洋平 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (00754722)
吉田 弥生 北海道大学, 教育学研究院, 専門研究員 (10929136)
杉山 晋平 天理大学, 人間学部, 准教授 (30611769)
榊 ひとみ 札幌学院大学, 人文学部, 准教授 (30757498)
岡 幸江 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (50294856)
向井 健 松本大学, 総合経営学部, 准教授 (50756765)
内田 純一 高知大学, 教育研究部総合科学系地域協働教育学部門, 教授 (80380301)
若原 幸範 聖学院大学, 政治経済学部, 准教授 (80609959)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | コミュニティ・ストーリーズ / 文化的記憶 / コミュニケーション記憶 / メモリー・スタディーズ / ミメーシス / 自治 / クロノトポス / 集合的記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は次年度からの実証分析に向けた分析枠組みの整理を課題とした。そのために、2023年6月に開催した第一回研究会では、コミュニティ・ストーリー(以下、CS)の下位概念である意味をめぐり、デュルケムやレヴィ=ストロースの流れを汲む構造主義的接近と、スピノザを踏まえて意味付与する主体の能動性を強調するリクールに代表される解釈学的アプローチを対比しつつ、両者の統合を活動概念を視野に入れて試みることを確認した。 CSに関わる活動としては、自治の経験が重要な意味を持つ。フレイレが過去・現在・未来を統合する歴史的時間の主体の形成にとっての自治の意義を指摘していたことを踏まえ、「時空間」(バフチン)として地域を把握するに至る論理を、アライダ・アスマンの文化的記憶論を参照しつつ整理し、9月に開催された日本社会教育学会において発表した。また、健康学習に即して、旧上郷町の地域医療実践がCSの再編集に持った意味を『にじ』に掲載した。 この仮説的理解は、東近江市の図書館活動およびそれを支えた市民活動の関係者への予備的インタビューによって妥当性を確認できた。また、剣淵町では基礎資料の複写を進め、次年度からのケーススタディの準備を行った。さらに、登米市では地域再生に労働者協同組合とともに取り組む地域において、CSの観点からの地域づくりの課題について講演を行い、理論枠の実践的有効性を確認した。 年度末には総括研究会を開催し、試論的な分析枠を精緻化するために、メモリー・スタディーズの成果との対比分析をおこなった。コミュニケーション記憶と文化的記憶の対比を強調する先行研究に対し、両者を記憶の二類型として理解するよりも、過去・現在・未来を統合する主体のモードの差異に関する指摘として理解し、モードの転換を引き起こす学習を実証分析の焦点に据えることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アルバックスやアスマンを参照しながら、CSの再編集としての社会教育実践の把握を試みているが、本研究が見通す理論的地平をメモリー・スタディーズの研究動向(エアル)に位置づけることによって、社会教育実践の立場から文化的記憶論の更なる展開を図る可能性が確認できた。 実証分析の枠組みとしては、CS論のフレームが有する説明力を実践現場で確認でき、理論的敵な精緻化を図るためには、メディアの構造を物語のモードと関連づける必要性を確認できた。後者は対象事例が直面したダブルバインド状況における複数のCSの顕在化とモードの流動化に着目するという分析上の焦点を導出するものである。この点では、ワーチの集合的記憶論に関する批判的検討を参照する必要性も確認できた。 事例分析については、東近江市・剣淵町の事例に加えて、北海道別海町と高知県西土佐村の戦争の記憶の継承、奈良市の町並み保存運動等を比較することの意義を確認できた。 このような到達点に鑑みれば、次年度以後の実証分析のための理論的枠組みの整理については、ほぼ見通しが立ったと言ってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
①メモリー・スタディーズの到達点と課題を分担者間で共有することが実証分析に着手する前提となるため、4月末と7月にオンラインで研究会を開催する。併せて、実証分析の枠組みについても代表者から提案する。 ②日本におけるメモリー・スタディーズの第一人者である山名淳氏を招いた研究会を社会教育学会内の公開研究会として実施する。 ③昨年度までの到達点を踏まえた理論的成果を日本社会教育学会で発表し、また同学会が共催する日韓学術研究交流大会においても発表する。 ④事例調査の予備調査を以下において実施する。剣淵町・別海町・東近江市・奈良市・中村市(旧西土佐村)。旧上郷町・鹿角市についても引き続き資料収集にあたる。 ⑤年度末には研究会を行い、それを踏まえた成果報告書をまとめる。
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