2022 Fiscal Year Annual Research Report
ホログラフィー原理の成立限界:時空再構成手法の統合による重力双対有無判定法の確立
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22H01217
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
橋本 幸士 京都大学, 理学研究科, 教授 (80345074)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村田 佳樹 日本大学, 文理学部, 准教授 (00707804)
吉田 健太郎 京都大学, 理学研究科, 講師 (30544928)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ホログラフィー原理 / カオス / 超弦理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、多様なアプローチを用いた、AdS/CFT対応におけるバルクの再構築に関連する研究を進め、プロトコル作成のための準備段階とした。特に、弦の散乱振幅のカオスの観点、現理論における行列模型のカオスの観点、QCDの物理量からバルクのメトリックを再構築する観点、バルクのブラックホールからのエネルギー抽出の観点、から研究を行い、それぞれにおいて、一定の成果を得た。 橋本は村田らと共同で、力学形カオスの全てに内在するカオスのリャプノフ指数の上限についての公式を得ることに成功した。この上限は、ホログラフィー原理が成立する量子系において知られていたカオス上限予想と密接に関係する公式であるばかりか、古典的なカオス系にも適用できるユニバーサルな上限である。現在まで知られているあらゆるカオス系で成立していることが確かめられており、ホログラフィー原理が成立するしないに関わらず存在する上限の発見は、今後、ホログラフィー原理の成立に関する研究をする上で基礎となる。 また、橋本は、QCDのメソンスペクトルの情報だけから、ホログラフィック双対なバルクの作用を再構築する手法により、バルクの具体的なディラトン重力作用を発見した。この重力理論において、閉じ込め描像を再現することなどが確認された。 吉田は、超弦理論の非摂動論的な定式化の候補として知られているBanks-Fischler-Shenker-Susskind (BFSS) 行列模型におけるメンブレイン不安定をカオス的散乱として再解釈できることを示し、そのカオスに付随するフラクタルについて議論した。 村田は、回転ブラックホールにある周波数帯の波動を入射すると振幅が増幅されて反射される。この現象をsuperradianceという。AdS/CFTを通すと、superradianceは熱場の理論からのエネルギー抽出の可能性で特徴付けることができることを発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現時点ではプロトコルの作成段階にまでは到達していないが、2022年度はホログラフィー原理でまずカオスなどの手法が成立限界を見極める上でどのように使えるのかを確かめる段階であるので、その意味で、概ね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、下記のプロトコル1から3の確定を行うことを目指している。 【プロトコル1】与えられた量子系の観測量から、AdS/CFT対応の逆問題を解 き、重力側の重力時空メトリックを得る。メトリックが重力系としてエネルギー条件 などの適切な条件を満たすかを確認することで、重力双対が存在するかを判定する。 【プロトコル2】適切な条件を満たした場合、そのメトリックで重力側の AdS/CFT対応の計算を行い、量子系の他の観測量に対する予言を行う。この予言値が 量子系の観測量の与える値と異なっていれば、重力双対が存在しないことになる。 【プロトコル3】逆問題の解法が複数適用できる場合、それぞれの手法を用いて得られた 結果を比較して矛盾のないメトリックが得られているかを確認することで、重力双対が存在しうるかの必要条件を見定めることができる。 今後の研究においては、初年度の研究成果がプロトコル1と2に相当することから、これらの研究成果に基づいて、プロトコル3の策定へと進みたい。
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