2023 Fiscal Year Annual Research Report
ゲノム・エピゲノム編集をもちいたダウン症候群の知的障害に対する遺伝子治療法開発
Project/Area Number |
22H03039
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
北畠 康司 大阪大学, 大学院医学系研究科, 教授 (80506494)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | ダウン症候群 / ゲノム編集 / 知的障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
ダウン症候群は21番染色体のトリソミーによって引き起こされる。申請者らは疾患特異的iPS細胞とゲノム編集技術を組み合わせることで、ダウン症の中枢神経病態の解析を行うとともに治療法の開発を目指している。健常アストロサイトは本来、神経細胞への保護作用をもっており、両者を共培養すると神経細胞のアポトーシスが抑制されるが、ダウン症アストロサイトではこの保護作用が消失するばかりか、神経細胞に過剰なアポトーシスを誘導してしまう。さらにダウン症アストロサイトでは自然免疫の重要な鍵を握る“NLRP3インフラマソーム”の活性が著しく上昇していること、その責任遺伝子が21番染色体上のDYRK1A であることを見出した。このDYRK1Aは、ダウン症神経前駆細胞にも作用し、その増殖を抑制し、かつ神経系への分化誘導を阻害する。そこで本研究課題ではこのDYRK1Aに対してゲノム編集・エピジェネティック編集をもちいることで治療法開発につなげることを目指している。 これまでの研究により、新規ゲノム編集技術であるCRISPR-Cas3がiPS細胞およびアストロサイトにおいて効果的にゲノム切断を起こし、DYRK1Aの欠失と発現量低下をもたらすことをin vitroで確認することができた。2023年度はさらにDYRK1Aのアレル特異的SNPを探しだし、正確な遺伝子量補正を目指した。DYRK1Aの重要な酵素活性ドメインを含むエクソン4の近傍にアレル特異的SNPを探しだし、これにCRISPR-Cas3を作用させてみることで、DYRK1Aのエクソン4のゲノム量減少と発現量の低下を確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CRISPR-Cas3は新規の国産ゲノム編集技術である。この技術をもちいてDYRK1Aの遺伝子欠失を誘導することに成功しただけでなく、1アレル特異的SNPを認識させることによって正確な遺伝子量補正が可能であることをin vitroで示すことができた。一方で切断活性を失くしたdead Cas9 (dCas9)にDNMT3A、3L、KRABをつないだCRISPRoffベクターを用いることにより、DYRK1Aの転写開始点近傍のDNAメチル化を変化させること、DYRK1Aの発現量を低下させることに成功しており、このエピジェネティック編集技術にアレル特異的SNPを組み合わせることも可能と期待され、今後さらに検証を進めていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、このエピジェネティック編集の可能性をさらに広げるために、転写開始点近傍のアレル特異的SNPを探しだして作用させ、アレル特異的な発現量低下を目指す。またマウスでの検証を進めるために、これらCRISPR-Cas3およびCRISPRoffを神経系へと送達可能とするドラッグデリバリーシステムとして、脂質ナノ粒子(LNP)の開発を行いたい。その先にはダウン症モデルマウスを用いて、その神経発生に及ぼす影響について検討を進めたい。具体的には、妊娠したダウン症モデルマウスの子宮内胎児の脳室内に脂質ナノ粒子を用いてCRISPRoff mRNAを投与し、出生後の神経・アストロサイトの細胞数を確認することを目指す。
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