2022 Fiscal Year Annual Research Report
グルカゴン応答性メチル化酵素を介した肝糖新生・肝がん促進メカニズムの解明
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22H03131
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Center for Global Health and Medicine |
Principal Investigator |
松本 道宏 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 糖尿病研究センター分子代謝制御研究部, 部長 (90467663)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 2型糖尿病 / グルカゴン / メチル化酵素 / 遺伝子転写 / 肝糖新生 / 癌抑制分子 / 肝細胞癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
先行研究において、グルカゴンにより遺伝子発現が誘導されるメチル化酵素SETXの肝臓特異的欠損により、肝糖新生系酵素遺伝子の発現抑制を介して糖尿病モデルマウスの高血糖が改善すること、同時に肝がんも抑制されることが明らかになった。前者はアセチル化酵素GCN5の機能抑制を、後者は癌抑制遺伝子産物p53の活性化を介することも示唆された。本研究では、SETXが慢性的なグルカゴンシグナルの亢進により活性化され、肝糖新生を活性化すると共に、肝がん形成も促進する可能性を検証し、そうであれば分子メカニズムを明らかにすることを目指している。またSETXの欠損による肝がんの治療の可能性も検証する。 本年度は、肝臓におけるSETXタンパクの発現調節機構の解析に供する3×FLA-SETXヘテロノックイン(KI)マウスを樹立した。SETXの強発現が、活性依存的にグルカゴン応答性の糖新生系酵素遺伝子の発現を増加させ、糖新生の促進を介して血糖値を上昇させることを見いだした。またAAVベクターを用いてSETXを肝臓に強発現させ、がん発症への影響の検討にも着手した。SETXの機能調節におけるPKAによるリン酸化の意義を検証するため、その非リン酸化型/恒常的リン酸化型変異体を発現するKIマウスを樹立した。相互作用・翻訳後修飾解析などからGCN5がSETXによりモノメチル化される基質であることをメチル化部位と共に明らかにした。またメチルの意義を検討するため、非メチル化変異体GCN5KRを発現する各種ベクターならびにKIマウスの作製に着手した。SETXによるp53のメチル化が肝がんに与える影響を明らかにするために、非メチル化型p53(p53KR) KIマウスを作製し、その検証に着手した。また肝がんに対するSETX抑制の治療効果の検証のため、薬剤誘導性肝臓特異的SETX欠損マウスの作製にも着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に則し本年度は、①肝臓におけるSETXタンパクの発現調節機構、②SETXの強発現が糖新生・肝がん形成に及ぼす影響、③PKAによるリン酸化を介したSETXの機能調節機構、④GCN5の機能調節を介したSETXの肝糖新生制御機構、⑤がん抑制遺伝子産物p53を介したSETXの腫瘍形成促進機構、の解析を推進した。 ①に関しては、内在性のタンパクを検出できる抗体が得られないため、3×FLAGタグを付したSETXを全身で発現するヘテロKIマウスを作製し、肝臓におけるその発現を解析したが、その発現は極めて弱く、ホモKIマウスが必要と考え、その作製に着手した。 ②に関しては、SETXの強発現は、活性依存的にグルカゴン応答性の糖新生系酵素遺伝子の発現を増加させ、糖新生の促進を介して血糖値を上昇させることが示された。またAAVベクターを用いてSETXを肝臓に強発現させ、がん発症への影響の検討に着手した。 ③に関しては、これまでに同定したPKAによるリン酸化部位を変異させた非リン酸化型SETX2Aならびに恒常的リン酸化型SETX2DのヘテロKIマウスを作製した。現在ホモKIマウスを樹立中である。 ④に関しては、相互作用・翻訳後修飾解析などからGCN5はSETXによりモノメチル化される基質であることを、メチル化部位と共に明らかにした。メチルの意義を検討するため非メチル化変異体GCN5KRを発現する各種ベクターならびにKIマウスの作製に着手した。 ⑤に関しては、SETXによるメチル化部位に変異を導入した非メチル化型p53(p53KR)のKIマウスを作製し、化学発癌物質ならびに食餌により誘導される肝がんに対する効果の検証を開始した。また肝がんに対するSETX抑制の治療効果の検証のため、薬剤誘導性肝臓特異的SETX欠損マウスの作製にも着手した。以上の進捗から、本研究は概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
①肝臓におけるSETXタンパクの発現調節機構の解析:絶食-再摂食状態の、あるいは非肥満、食餌性ないし遺伝性の肥満を誘導した3×FLAG-SETXホモKIマウスから肝臓を採取し、SETXタンパクの発現や翻訳後修飾を解析し、これらに変化が認められれば、活性や機能に与える影響を検討する。 ②SETXの強発現が糖新生・肝がん形成に及ぼす影響の解析:SETXの強発現が糖新生と同様に肝がん形成を促進するならば、糖新生系酵素遺伝子プロモーターでおこる変化や、がん部、非がん部においてSETXの用量依存的に発現が変化する遺伝子を網羅的に探索し、両者を促進する分子機構を明らかにする。 ③PKAによるリン酸化を介したSETXの機能調節機構の解析:作製したSETX2A及びSETX2DのKIマウスの代謝/肝発がんにおける表現型解析ならびに単離肝細胞を用いた解析から、リン酸化の意義を明らかにする。 ④GCN5の機能調節を介したSETXの肝糖新生制御機構の解析: GCN5KRを発現する各種ベクターを用いた初代培養肝細胞における解析ならびにKIマウスの表現型解析から、メチル化の意義を明らかにする。 ⑤がん抑制遺伝子産物p53を介したSETXの腫瘍形成促進機構の解析:p53KR KIマウスと単離KI肝細胞を用いた解析から、腫瘍形成におけるメチル化の意義を明らかにする。また薬剤誘導性肝臓特異的SETX欠損マウスを作製し、その抑制による肝がん治療の可能性を検証する。
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Research Products
(10 results)