2023 Fiscal Year Annual Research Report
A Synthaetic approach to "Asianized Buddhist Art"
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23H00581
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
森 雅秀 金沢大学, 人文学系, 教授 (90230078)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福山 泰子 龍谷大学, 国際学部, 教授 (40513338)
永田 郁 崇城大学, 芸術学部, 教授 (20454952)
平岡 三保子 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (00727901)
大羽 恵美 金沢大学, 人間社会研究域, 客員研究員 (50707685)
伊藤 奈保子 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 准教授 (20452625)
影山 悦子 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (20453144)
檜山 智美 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (60781755)
大島 幸代 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (60585694)
濱田 瑞美 横浜美術大学, 美術学部, 教授 (30367148)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | アジア化 / 仏教美術 / インド化 / 画像データベース / 図像学 / 基層文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は仏教美術がインドからアジア全域に伝播し現在に至るあり方を「アジア化」という概念のもとでとらえ直し、仏教美術研究の再構築を行う。インドからアジア各地に仏教美術が伝播する際に現れる「アジア化のプロセス」を、インドにおける成立、アジア諸地域への伝播、各地域での定着という3つの段階に分け、さらにそれを細分化した6つのプロセスとしてとらえる。そして、これに対し、(1)アジア諸地域における仏教美術のアジア化の様相とそのメカニズムの解明、(2)あらたな「固有の文化」としての正統性の獲得、(3)アジア化と補完的な位置にある「インド化」の解明、(4) 既存の文化との交流・習合から見た仏教美術、という4つの課題にしたがって研究を進める。 初年度である2023年度は「仏教美術のアジア化」の基礎概念と実際のあり方を検討し、本研究全体の方向性を確定した。メンバー全体がそれぞれのこれまでの研究成果をアジア化という視点で再検討し、その成果にもとづいて研究会において議論を行い、次年度以降の研究の基盤とした。 これらの研究の基礎作業として、研究代表者と研究分担者がこれまでに蓄積してきたアジア各地の画像資料を集約し、統一的なデータベースとしてメンバー全体で共有するとともに、可能な範囲で公開するための準備を行った。画像データを中心に、名称、法量、所蔵・所在、撮影場所、撮影者などの基本的な情報に加え、図像学的情報、関連する文献との対応、先行研究のレファランス等のデータを加え、アジアの仏教美術を包括する情報プラットフォームとして整備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アジア化の基本的概念と具体的なあり方をメンバー全体で共有するため、2023年7月に金沢大学において研究集会を開催し、ワークショップ形式で議論を進めた。研究代表者の森が研究全体の目的、研究対象、実施方法、成果公開などについて説明した。つづいて分担研究者全員が、各自の研究テーマと進捗状況、今後の研究計画などを紹介した。これらを受けて、今後の研究方針と研究方法を確認し、次回以降の研究会で順次、その成果を報告することとした。 研究成果の公表については、メンバー全員を中心に、さらに関連分野の研究者にも執筆を依頼し、論文集もしくは啓蒙的な叢書の刊行を目指すことで合意した。とくに、わが国におけるアジア仏教美術史の研究の底上げや刷新をはかるために、若手研究者に研究会への参加を呼びかけ、成果刊行物への執筆を積極的にすすめることとした。 データベースの構築に関しては、金沢大学比較文化学研究室が所蔵する故矢口直道氏の撮影データの整理を進めた。おもにインドの石窟寺院やヒンドゥー教寺院についてのスライド・フィルム写真で、その数はおよそ4万点にのぼる。将来の公開のために、各画像データのメタデータを入力した。また、明治初年に開版された仁和寺の御室版両部曼荼羅集の初版本を、詳細な写真集として刊行した。この曼荼羅集は、インドに起源を持つ両部曼荼羅が日本に伝来し、継承されてきた貴重な事例であり、密教美術のアジア化を示す格好の素材である。さらに、インドのボードガヤ大塔に置かれたパーラ朝期の尊像彫刻の画像データも刊行した。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は二つ目の課題である「あらたな「固有の文化」としての正統性の獲得」についての研究を進める。前年度の成果をふまえ、アジア各地のアジア化を、さまざまな局面で把握することで、アジア化の具体的なありかたをより深化させ、精緻なものとする。アジア化はそれぞれの地域の仏教美術の出発点に位置づけられる。そこではアジア化と同じプロセスが、周辺地域を含みながら、規模をかえながら何度もくりかえされる。さまざまなレベルでの「アジア化」を解明することは、文化接触とそれにともなう新たな伝統の創出という普遍的に見られる文化現象を、従来とは異なる次元で理解することにつながる。 2025年度は三つめの課題である「アジア化と補完的な位置にある「インド化」の解明」を行う。「アジア化」がインドからアジア諸地域へという方向であるのに対し、アジア諸地域が示すインド的イメージへの回帰は「インド化」という逆の方向としてとらえることができる。従来、このような現象は「インド的」や「インドの影響を受けた」といったいわば受け身として表現されてきたが、実際はより能動的なインド志向を明確に示すこともある。「アジア化」と「インド化」という双方向的な現象から、仏教美術の伝播を立体的に把握する。 2026年度は四つめの課題である「既存の文化との交流・習合から見た仏教美術」に関する研究を行う。アジア各地への仏教の伝播は、それぞれの地域の既存の諸宗教との接触をしばしばともなう。中国の道教、東南アジアの精霊信仰、チベットのポン教などはその代表的な例である。また民間信仰や異宗教と仏教との相互交渉は、すでにインド内部でも見られる。ローカルな文化交流の視点から「アジア化する仏教美術」の研究全体をとらえ直すことで、アジアの基層文化を形成する重要な文化交流のひとつのモデルを提示する。
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