2023 Fiscal Year Annual Research Report
キビと水棲動物利用マップの作成-脂質バイオマーカー分析から探る弥生時代の食性-
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23H00708
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮田 佳樹 東京大学, 総合研究博物館, 特任研究員 (70413896)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 青樹 奈良大学, 文学部, 教授 (30284053)
白石 哲也 山形大学, 学士課程基盤教育院, 准教授 (60825321)
久保田 慎二 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部附属国際人文社会科学研究センター, 准教授 (00609901)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 脂質分析 / バイオマーカー / キビ / 水棲動物 / 弥生時代 / 食性解析 / APAAs / ミリアシン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、土器残存脂質に含まれる「ミリアシン(キビのバイオマーカー)」、「イソプレノイド類(水棲生物のバイオマーカー)」、「アルキルフェニルアルカン酸(APAAs)」などの各種バイオマーカーの時空間変動をマッピングすることによって、日本列島における縄文弥生境界期以降のイネ・キビ・アワなどの大陸性栽培穀物の伝播と灌漑水田稲作の受容、それに伴う水棲、陸棲資源利用の様相を総合的に明らかにすることである。したがって、煮炊きに用いた土器を列島の各地域で、通時的に分析することができれば、「キビ」を含む大陸系穀物と「水棲(陸棲)動物」利用の変遷を議論し、確からしい弥生像を再構築することができる。さらに、異なるプロセスで雑穀栽培を開始した北海道の土器残存脂質分析結果と比較することで、弥生文化における大陸性穀物の導入を日本列島全体の状況から総合的に検討する。 選択的にイオンを検出するSelected Ion Monitoring(SIM)法を従来使用していたTotal Ion Chromatogram(TIC)法と併用することにより、TIC法と比べて10 倍以上高感度に、目的のバイオマーカーを同定することが可能になった。 例えば、弥生時代前期の下フノリ平遺跡(山梨県北杜市)、弥生時代後期の登呂遺跡(静岡県静岡市)や続縄文時代前半期の美岬6遺跡(北海道網走市)などの土器を用いて、キビなどの雑穀、(淡水や海産などの)魚介類などの水棲動物利用の状況を土器残存脂質から詳細に検討できるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題は,以下の点により,おおむね順調に進展していると判断した。
1)研究の開始にあたり、分析装置であるガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)による分析方法の改良を行った。従来使用していたTIC法とともに、特定の質量電荷比(m/z)を持つフラグメントイオンだけを検出できるよう測定時の電圧を設定するSIM法を併用することにより、特に、雑穀のキビや水棲動物のマーカーであるイソプレノイド類やアルキルフェニルアルカン酸などのバイオマーカーの検出に最適になるように調整を行った。 2)その結果、これまで圧痕法によって、キビなどの雑穀の存在が指摘されてきた時期・地域の遺跡から出土した土器から、微量なミリアシンなどの各種バイオマーカーについて検出頻度が向上しており、今後の適切な遺跡、土器試料を選択できれば、土器残存脂質分析を行うことによって、成果が充分期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
調整したSIM法をTIC法とともに併用することにより、GC-MSによるバイオマーカー解析を活用して、以下の遺跡を中心に分析を行う。 1)弥生時代前~後期までのキビ・アワなどC4植物と水棲(陸棲)動物資源利用の画期確認 畿内の平等坊・岩室遺跡(奈良県天理市)、服部遺跡、下之郷遺跡(滋賀県守山市)、雲ノ宮遺跡(京都府長岡市)、下フノリ平遺跡(山梨県北斗市)、長野県安曇野市などの弥生遺跡を、奈良盆地唐古・鍵遺跡で観察された中期前~中葉(Ⅱ~Ⅲ様式)にかけての画期と比較し、さらに、中部、関東、東北など他の地域での弥生時代の水田遺跡と比較することにより、本研究の手法が弥生農耕を捉える新しい指標として活用できるかその有効性の検討を行う。 2)北海道では別なプロセスで雑穀栽培を開始したので、その地域の土器の分析結果と比較することで、弥生文化における大陸性穀物の導入を総合的に検討する。
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