2023 Fiscal Year Annual Research Report
「国家の介入しにくい空間」における秩序の生成―アジア・アフリカの人類学的国家論
Project/Area Number |
23H00737
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
下條 尚志 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (50762267)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀬戸徐 映里奈 近畿大学, 人権問題研究所, 講師 (00822719)
岡野 英之 近畿大学, 総合社会学部, 准教授 (10755466)
河合 文 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 助教 (30818571)
中尾 世治 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 助教 (80800820)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 国家の介入しにくい空間 / ヴァナキュラーな秩序 / 中間集団 / 中間圏 / 底流政治 |
Outline of Annual Research Achievements |
国家が不安定化した際、日々を生きる人々はどのような場で、いかなる関係を築き、新たな秩序を創り出すのか。この問題を検討するため、人類学的、人類史的視座から、東南アジア、西アフリカ、日本を主な対象に解明する。 昨年度は、4月14日に第1回科研分担者で集合し、キックオフミーティングを実施した。そこでは、各メンバーの研究方針を確認した。 下條は、9月にメコンデルタ及びトンレサップ湖全域を調査した。さらに今年3月にベトナム・メコンデルタおよびカンボジア・トンレサップ湖コンポンルアン村で、人々の移動経験や生業、民族宗教状況に関するインタビュー調査を実施した。岡野は2023年8-9月と2024年2-3月にそれぞれ1.5カ月の現地調査をタイ=ミャンマー国境域で実施し、政治活動において隣国タイおよび国境域がどのように利用されているのかを調査した。河合は、マレーシアにおいてコロナ禍中の生活の秩序維持の方法や、コロナ禍後に政府主体の開発援助が加速するなかで人々が移動を伴う生活を続ける実態を調査した。中尾は、ボローニャ大学の博士研究員のドメニコ・クリストファロ氏とともに、仏領オート・ヴォルタと英領ゴールド・コーストとの国境付近のタカラガイや英仏領の植民地通貨の利用について議論を重ね、欧州アフリカ学会で発表をおこなった。瀬戸徐は、調査対象地である兵庫県南西部の被差別部落出身者50代~90代を対象に、住民の流出入、職業の変化、被差別経験、食生活、外国人住民との接触状況に関する聞き取り調査を行い、世代ごとの変化について分析を行った。 また研究協力者として下條の主指導院生の前田彩希は、本科研を利用してジャワ島で占いを扱うプリンボンという書籍に関する調査を実施し、国家の介入しにくい空間を作り出すための、占い師と書店、新聞社、役人等の人々の出版上の協力関係を調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は主に各メンバーがそれぞれのフィールドで調査を行った。岡野英之はタイ―ミャンマー国境の難民キャンプ、河合文はマレー半島のバテッ、瀬戸徐映里奈は姫路市の在日ベトナム人、中尾世治はブルキナファソのイスラーム世界、下條尚志はベトナム・カンボジアのメコン河流域世界、下條の主指導院生で研究協力者の前田彩希はジャワ島の占い本の出版と実践について、それぞれ綿密な実地調査を実施し、「国家の介入しにくい空間」に関して考察した。 昨年度は基本的に、それぞれがフィールドワークを実施し、実際の調査地で「国家の介入しくい空間」としてどのような研究対象、問題設定がありうるのかを検討ベトナム―カンボジア両国の混乱期に、戦争や社会主義政策を避けて水上生活を開始した人々にとって、生存維持のために不可欠な場となっていたことを把握することができたため、研究は順調に進んでいる。岡野は、2021年にクーデターが発生して以降、混乱が続いているミャンマーにおいて、クーデター以降の国境域の変化について大まかに把握した。河合は、コロナ禍で調査をできない期間が続き、またコロナ禍前後で生活環境や暮らしに大きな変化があったため、より詳細なフォローアップが必要だが、ほぼ予定通り進んでいる。中尾は、ボローニャ大学の博士研究員のドメニコ・クリストファロ氏とともに研究を進め、欧州アフリカ学会での発表内容をもとに、投稿論文の執筆をおこなっており、投稿にむけて順調に進捗している。瀬戸徐は、同和対策事業という国家の介入を大きくうけた被差別部落が、事業の時効切れによって、その介入がなくなったあと、差別、貧困や開発の遅れとどのように向き合ってきたのかが浮かび上がりつつあり、研究調査の進捗は概ね良好である。 全体として、研究を展開していくために不可欠なデータを数多く収集することができたため、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、新たに東京大学 特任研究員の楠和樹氏を分担者に加えることになった。分担者のミーティングを5月26日に実施し、進捗状況や今後の研究方針について議論する。さらに6月15-16日に実施される日本文化人類学会研究大会では、下條、岡野、河合、中尾、楠が「空間統治と「国家の介入しにくい空間」東南アジア・アフリカにおける人類学的国家論」というタイトルで、本科研に関わる研究発表を行う。さらに7月27日-8月1日にかけてインドネシア、スラバヤで実施される国際会議ICAS13では、本科研のメンバーである下條、岡野、河合、さらに東京外国語大学の小田ならが共同でパネル発表を行う予定である。 研究代表者である下條は、カンボジアのトンレサップ湖の水上集落であるコンポンルアン村において定点的な調査を昨年度に引き続き、実施する予定である。この調査を通じて、この集落がいつ頃から形成されたのか、また1975年から1979年にかけて成立したポル・ポト政権による強制的な定住化政策を経て、集落がどのように変容したのか、民族・宗教関係がどうなっているのかを調査する。岡野は、ミャンマーの情勢を把握することを努めつつ、タイ=ミャンマー国境域が他地域とどのように繋がっているのかも明らかにする。河合は、特にコロナ禍が特殊な秩序形成につながっていた点に注目して調査を進める。また、国家の秩序と人々の形成する秩序がともに存在する状況について理論的な面での研究を進め、国内外の学会でも発表する。中尾は引き続き、ボローニャ大学の博士研究員のドメニコ・クリストファロ氏との共著論文の執筆・投稿を進めつつ、フランス海外公文書館等での史料調査をおこなう。瀬戸徐は、部落住民の聞き取り調査を継続し、後期に調査内容をまとめる。
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Research Products
(10 results)