2023 Fiscal Year Annual Research Report
A New Scientific Framework of Volcanic Eruptions based on Apatite U-Th Disequilibrium System
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23H01265
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岩野 英樹 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (80959487)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平田 岳史 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10251612)
坂田 周平 東京大学, 地震研究所, 助教 (20772255)
折橋 裕二 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (70313046)
浅沼 尚 京都大学, 人間・環境学研究科, 講師 (90852525)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | U-Th非平衡 / アパタイト / 年代測定 / マグマプロセス / LA-ICP質量分析 / 火山岩 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、10万年前から千年前までの火山の火成岩鉱物年代測定を行うためのアパタイトを対象とした新規手法(U-Th放射非平衡年代測定法)を開発する。本手法はマグマ内の晶出期が比較的早いアパタイトを対象とすることでマグマ滞留時間の推定も可能にする。一般にアパタイトのもつウラン濃度は、ジルコンの1/10~1/100程度と低いため、U-Th法はジルコンに適用される場合がほとんどであった。これに対し、高速多点レーザーアブレーション法で100倍以上広い領域をサンプリングすることで、ICP質量分析法を用いて低ウラン濃度鉱物にも適用でき得る。その結果、放射平衡に達している年代の古い複数の試料から230Thのシグナルを検出することに成功した。さらに非平衡試料として、約5万年前に噴出した火山岩と年代ゼロと扱える(約80年前噴出)火山岩のアパタイトからも230Thのシグナルを検出できた。次のステップとして、非平衡アパタイト試料のU-Th年代算出のために行うべき3つの改良点を以下に示す:1)非常に少ない230Thシグナルを確度高く検出するためアブレーションブランクが重要となる。これにはウラン、トリウムを含まない合成アパタイトを用意する。2)年代算出の正確さを保証するため、Th/U比既知の標準物質 (アパタイト巨晶)が重要であり、Th/U比の値付けと、粒子内での均質性を担保するイメージング解析を行う。3)U-Thアイソクロン年代精度向上の有効な手段として、マグマの初生Th/U比をアンカーとして決定する。これには結晶内のメルトインクルージョンを狙い、新たに開発した超微小領域2ミクロン対応レーザーを装着したシステムを利用する。来年度はこれらを達成し、北海道・東北で採取した火山灰の年代測定を遂行する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、従来年代測定が実行できない年代領域(特に10万年より若い)での火山岩鉱物年代測定基盤を開拓する。この目的に向け、先にNiki et al. (2022)によって開発したジルコンU-Th年代が重要な役割を担う。この測定基礎に加え、同一ジルコン粒子を使って噴出年代(鉱物冷却年代)として扱えるフィッション・トラック(FT)年代の同時分析の開発も行った。この研究をベースに、ジルコンとアパタイトが共存する火山岩をまず対象とする年代測定研究を行った。その目的は、同一試料のジルコンFT年代およびU-Th年代に対して、新規のアパタイトU-Th年代データ評価ができる点である。一方、U-Th法では本来均質な多数粒子から一つのアイソクロン年代を決定する手続きを踏むが、外来結晶が混在するような不均質な試料に対してU-Th法以外の年代情報で古い粒子をスクリーニング(除外)する独自のマルチ手法解析を開発した。現時点で、アパタイトU-Th年代を独立に算出できるところまでは至っていないが、ジルコンとアパタイトを組み合わせた鉱物アイソクロンU-Th年代が実現できる環境が整いつつある。この手法開発は、これまで火山岩そのものに対して直接年代が得られなかった後期更新世火山学および年代学に大きな風穴を開ける研究(ブレイクスルー)となる。将来的にはジルコンU-Th年代とアパタイトU-Th年代との差を検出することによって、マグマプロセス年代学の基礎的手法となり得る。ジルコンのマルチ年代測定法の改良というやや遠回りした形になったが、アパタイトU-Th研究をより強固にサポートできる研究体制となった。本研究の第一目標(アパタイトU-Th)も、当初の計画通りに進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の基礎技術として、U/Th比既知のアパタイト標準物質の準備と、230Th検出の妨げになるノイズ(質量数230となる多原子干渉イオンなど)の評価を行うための合成アパタイト(UおよびThを含まない)の準備を行う。本研究の応用研究として、噴出年代とアパタイト晶出年代のギャップ、すなわちマグマ滞留時間の大小を有史時代の溶岩や火砕流堆積物を使って把握する。本年度には、噴出年代がすでに分かった九州の雲仙火山と阿蘇火山の試料採取を行う。各試料から、アパタイトおよびU-Th法が適用可能な他鉱物(ジルコン、イルメナイト 、モナザイトなど)を分離する。アパタイト分析では、レーザーアブレーションで直接粒子の一部を固体サンプリングする手法を優先的に開発する。あるいは、粒子が小さい場合や230Thカウント数が少ない場合、1粒子を溶融させた溶液分析に代わる方法として、全粒子をレーザーアブレーションサンプリングする次善策も検討する。併せてアパタイト試料中のメルトインクルージョンに対し、超微小領域2ミクロン対応レーザーを用いた初生マグマのトリウム-ウラン比(Th/U)データ取得を開始する。年代算出基準となる平衡状態(平衡線: equiline)を決定するためのアパタイト標準試料候補(Fish Canyon Tuffに加え、マダガスカル産巨晶、米国ダルース岩体など) についてU-Th分析を行い、優秀な標準物質を選別する。本年度は、初年度採取したアパタイト試料(北海道洞爺火山、東北十和田火山)のU-Th年代測定とその報告、および上記九州雲仙・阿蘇火山試料について、アパタイトU-Th年代および、ジルコンやイルメナイトU-Th年代やジルコンFT年代データを蓄積する。
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