2023 Fiscal Year Annual Research Report
フグの選択的毒蓄積に関わる分子機構究明 - スーパー無毒フグ作出の試み
Project/Area Number |
23H02311
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
荒川 修 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (40232037)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 明徳 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (40378774)
木下 政人 京都大学, 農学研究科, 准教授 (60263125)
高谷 智裕 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (90304972)
山口 健一 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (90363473)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | フグ / テトロドトキシン / サキシトキシン / フグ毒結合タンパク質 / PSTBP / トリブチルスズ結合タンパク質 / TBT-bp / Na+チャネル |
Outline of Annual Research Achievements |
Pao属淡水フグ4種を対象に毒性調査もしくは毒投与実験を行い、カンボジア産のPao sp. AおよびBでは種や生息域により毒の蓄積部位や蓄積量が異なること、Pao sp. Aでは卵巣の毒濃度と生殖腺体指数の間に強い正の相関が認められること、Pao abeiとPao baileyiでは、後者の方がより高いサキシトキシン(STX)蓄積能を有すること、などを明らかにした。また、オキナワフグの毒投与実験に関する既得のデータを取りまとめて論文化した。 従前の研究では、核ゲノム遺伝子の系統解析とゲノム縮小化メカニズムの解析により、フグ科では、ハリセンボン科との分岐後のゲノムサイズ縮小がフグ毒結合タンパク質(PSTBP)とトリブチルスズ結合タンパク質(TBT-bp)の分子進化の契機となったことが示唆された。今年度はサバフグ属2種とオキナワフグ属1種のゲノムシーケンスを新たに行い、フグ科におけるPSTBP/TBT-bp2アイソフォーム遺伝子分布プロファイルのさらなる解析を進めた。 我々は最近、トラフグ血漿中に、既知の2ドメイン型PSTBPに加え、新規な3ドメイン型PSTBPが存在することを明らかにした。そこでトラフグ属4種の血漿に含まれるPSTBPの比較生化学的解析を行なったところ、いずれも3ドメイン型と2ドメイン型に相当する熱可溶性のオーソログを共通して保有していることが判明した。 後述のとおり、今年度はトラフグを用いたゲノム編集を実施することができなかった。そこでフグ類のフグ毒耐性が、テトロドトキシン(TTX)耐性Na+チャネル(Nav)およびPSTBPに起因するかを明らかにするために、Nav をトラフグ型に変換したメダカ、およびPSTBPを過剰発現させたメダカを作出することを計画し、これまでにメダカNav中でトラフグのTTX耐性に関与すると考えられるNav ホモログを3種同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
我々はこれまでに、トラフグ属、キタマクラ属、モヨウフグ属、サバフグ属、Pao属、Leiodon属、およびDichotomyctere属の一部の種について、毒性プロファイル(TTX/STXsの蓄積量、組成、体内分布など)やTTX/STXs蓄積能、PSTBP/TBT-bp2遺伝子の分布プロファイルに関する情報を集積してきた。前述のとおり、本年度はさらにPao属4種、オキナワフグ、ドクサバフグ、およびカナフグについて新たな情報を取得することができた。また、オキナワフグの毒投与実験に関する既得のデータを取りまとめる過程で、フグの毒性プロファイルにはフグ自身の毒選択性や生息環境中のTTX/STXsの多寡に加え、環境水の塩分(浸透圧)も重要な役割を演じていることを再認識できた。フグは淡水域に進出する際、浸透圧の影響を受けてSTXsを蓄積するようになった可能性がある。このことは、今後の研究の方向性に毒蓄積関連遺伝子と浸透圧との関係という新たな視点をもたらすものと思われる。 一方、これまでの研究により、PSTBP遺伝子の分布はTTXの蓄積とよく一致しており、TTXを蓄積する種のみがこの遺伝子を有すること、さらに、同種でも個体間でPSTBPのコピー数が大きく異なることがわかっているが、タンパク質レベルでもPSTBPの多様性やそれらの化学構造が明確になってきた。今後、PSTBPとTTX蓄積との関連を明らかにするうえで、PSTBP欠失トラフグの作出に大きな期待がもたれる。しかし、これまで研究分担者がトラフグのゲノム編集を実施する場として利用していた旧瀬戸内海区水産研究所屋島庁舎が閉鎖され、メダカで代用することを計画したものの、今年度はトラフグを用いたゲノム編集を試みることができなかった。したがって、本研究課題の進捗状況については、やや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、カンボジアのクラチエ大学、バングラデシュのダッカ大学と共同研究を進めており、未調査の海産/淡水フグ種の天然個体を入手できる可能性がある。また、株式会社海遊館より、近日中に広塩性海産種オキナワフグと淡水種Pao baileyiの無毒人工飼育個体を供与していただく予定である。それらのフグ種を用い、天然個体については保有毒の分析と遺伝子解析を、人工飼育個体については毒投与実験や組織切片培養実験を行い、引き続き毒性プロファイルやTTX/STXsの選択的取り込み蓄積能、PSTBP/TBT-bp2遺伝子の分布・発現プロファイル、あるいはそれらに与える浸透圧の影響に関する情報を集積する。 一方、トラフグ属以外のフグ種についても、PSTBP/TBT-bpアイソフォームを分離・エンリッチ化し、脱糖鎖処理を組み合わせた質量分析やゲル濾過/ウエスタンブロット解析により、高次構造に関する性状を含めて化学構造を解析するとともに、リポカリンタンパク質の蛍光リガンドを用いた競合試験などにより、各アイソフォームのTTX/STXs結合性を調べていく。 他方、現在、トラフグのPSTBP/TBT-bp2アイソフォーム遺伝子欠損系統を効率的に作出するため、個体間の遺伝子コピー数の比較およびゲノム編集のターゲットとなるシーケンス配列の探索を進めている。また、複数存在するPSTBPのアミノ酸配列をアライメントすることにより、メダカに導入するプラスミドを構築中である。今後、TTX耐性Nav発現メダカやPSTBP発現メダカを作出し、TTXに対する耐性/蓄積能を調べるとともに、トラフグ親魚の養成から、採卵、RNAインジェクション、その後の飼育にいたるまでを可能とする施設を早急に確保して、トラフグを用いたゲノム編集を試みる。
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[Presentation] カンボジア産淡水フグPao属2種の毒性プロファイル2023
Author(s)
竹岡順史, 朱 鴻辰, 和田 実, 井口恵一郎, 宇都宮譲, 大庭伸也, Laymithuna Ngy, 土井啓行, 山田明徳, 荒川 修, 高谷智裕
Organizer
令和5年度日本水産学会秋季大会
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