2015 Fiscal Year Annual Research Report
経済格差のダイナミズム : 雇用・教育・健康と再分配政策のパネル分析
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24000003
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
樋口 美雄 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (20119001)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 勲 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (20453532)
赤林 英夫 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (90296731)
大垣 昌夫 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (90566879)
MCKENZIE Colin 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (10220980)
土居 丈朗 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (60302783)
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Project Period (FY) |
2013 – 2016
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Keywords | 経済格差 / パネルデータ / 応用ミクロ経済学 / 再分配政策 / 動学分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の第1の柱「大規模なパネルデータの設計・解析・公開」では、「慶應義塾家計パネル調査(KHPS)」と「日本家計パネル調査(JHPS)」の統合を実現させ、「日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)」で名前を統一した。データ統合プログラムやデータマニュアルを作成し、更なる利便性の向上に努めた。2015年4月から2016年3月までの貸出件数は245件であり、日本を代表するパネルデータとして躍進した。 第2の柱「応用ミクロ経済学の他分野領域からの多角的かつ動学的な経済格差研究」でも多くの実績を出した。労働経済学班は、非正規雇用の増加、就業と人的投資、結婚・出産、ワークライフバランス、健康、労働市場政策評価などの観点から個人の賃金格差分析、ならびにこれが家計の所得格差にあたえる影響について分析を進めた。企業パネル班は、企業の財務、地理、主要取引先等のデータを用い、企業属性と取引成立に関する研究を進めた。また、企業パネルデータを用いた女性雇用と企業業績、メンタルヘルスと企業業績の関係等の検証を進めた。資産ストック班は、家主の直面する取引コストを考慮した場合の借家家賃と契約期間の理論的実証的分析、家計の災害リスクの認知と保険加入の関係の分析を行った。また、住宅を通じた世代間の資産移転と経済格差の分析のためのデータ整備と基本的な検討を行った。財政班はルクセンブルク所得研究へ提供する可処分所得推計プログラムの作成や、所得控除から税額控除への所得税制改革のマイクロ・シミュレーション分析を行った。教育班は、「日本子どもパネル調査」を実施し、これに基づく家庭の経済格差と子どもの学力、非認知能力、教育投資等の動態に関する多角的な分析結果を盛り込んだ書籍「学力・心理・家庭環境の経済分析」を2016年5月に出版する。 社会保障班は、健康格差や、所得格差・貧困の分析などを行った。パネルデータを使った論文で、メンバーの上村一樹氏は2015年度の生活経済学会奨励賞を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「慶應義塾家計パネル調査(KHPS)」と「日本家計パネル調査(JHPS)」の統合について、当初予想された問題を解決した上で実施することができた。調査名については、「日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)」で名前を統一し、調査対象者にも広報した。センターのHP上においても2つの調査の統合に関して情報を整理するとともに、データの貸出においても貸し出しを一本化するなど利便性を高めた。さらに、統合データの利用促進を図るべく、KHPSとJHPSのデータを統合するプログラムを開発し、共有化することもできた。 昨年度同様、平成27年度においても国際共同研究を前進させることができた。OECDとの所得格差の国際比較に関する共同研究では、JHPSを用いた分析結果をOECDに提供し、2015年5月にOECDが出版した報告書“In It Together”や“Employment Outlook 2015”に掲載され、JHPSが日本を代表するデータとして取り扱われたとともに、研究成果についても国際社会に広く示された。 また、JHPSの可処分所得推計プログラムの構築においても大きな前進を遂げた。経済格差研究を行うにあたり、可処分所得は重要な変数であるが、通常の調査から直接把握することは難しく、複雑な推計プログラムの構築が必要となる。平成27年度では、JHPSの最新年度のデータに至るまで可処分所得推計プログラムの構築をほぼ完成させた。国際共同研究の一環として、可処分所得データを含むJHPSは、日本の代表データとしてルクセンブルク所得研究(LIS)に提供されており、家計所得の国際比較データとして公開されている。作業が順調に進んでいるため、当初の予定よりも早くデータを提供することが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
サンプリングや標本脱落、サンプル追加により生じる母集団からの標本バイアスの修正を行うため、すでにウェイトの作成を進めてきた。今後は、「日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)」利用者に向けて、データのさらなる利便性の向上を図るべく、国際基準に則り作成済みのウェイトの精度を高め、公開の準備を進めていく。 2016年度は本研究プロジェクトの最終年度であるため、5月14日(土)に一般向け公開シンポジウム「日本の経済格差のダイナミズム : パネルデータによる実態把握」を開催し、「経済格差と雇用・健康・教育・社会保障制度・政府の再分配機能」について6本の論文を報告し、これまで行ってきた経済格差研究の成果を公表する。シンポジウムに関しては、参加募集開始早々に申し込みが殺到しており、国内外の研究者をはじめ、行政担当者や一般の方々から多くのコメントを得ることができると期待されている。 シンポジウム以外にも、本研究のこれまでの成果について、図書の刊行、雑誌論文の作成、学会発表、カンファレンスの開催、パンフレットの送付、新聞記事の掲載などによって情報発信していく。研究班の枠組みを超えて緊密な連携をとりながら研究を進めている。 また、JHPS/KHPSの付随調査として行っている「日本子どもパネル調査(JCPS)」については、研究プロジェクト開始当初から着々と進めてきた家庭の経済格差と子どもの学力、教育投資などの動態分析に関して、書籍の出版が確定した。さらに、子どもの教育格差に関して、新たに北京大学との共同研究を計画しており、更なる研究の発展を目指している。 国際共同研究においては、ルクセンブルク所得研究(LIS)への可処分所得データ提供の更新、経済協力開発機構(OECD)との所得格差・貧困に関する共同研究の継続、オハイオ州立大学が中心となっている国際パネルデータCross National Equivalent Fileへのデータ提供を進めていく。 企業パネルデータについては、現状までのところ、TSR企業情報ファイルを活用して、住所情報から緯度経度情報を追加し、取引関係にある複雑なプログラムの作成を経てパネルデータの構築に成功しており、今後は更に市区町村レベルで整理された地理変数をデータに追加するための作業を進め、企業が立地する地域市場の特性を把握し、それらが、企業の取引ネットワークといかに関係しているかを明らかにしていく。
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