2013 Fiscal Year Annual Research Report
ヘリウム表面における新奇量子現象―マヨラナ状態の検証
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24000007
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
河野 公俊 独立行政法人理化学研究所, 河野低温物理研究室, 主任研究員 (30153480)
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Project Period (FY) |
2012-05-29 – 2017-03-31
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Keywords | 低温物性 / 量子コンピュータ / 物性実験 / 非線形非平衡現象 / 超流動 / トポロジカル超流動 / 対称性の破れ / カイラリティ |
Research Abstract |
本研究は、国際的に高く評価されている2次元電子系やイオン系を用いたヘリウム表面に特有な量子現象の研究によって、これまでに得られた知見の中で特に重要なものについて、集中的に研究を深化させることにより、これまでの研究を集大成することを目的とする。具体的には以下の項目について重点的に研究を行う。 1 超流動ヘリウム3自由表面に存在することが理論的に予言された表面束縛状態のマヨラナ性を理想的な条件のもとで検証すること。それに関連した、超流動ヘリウム3の持つ自発的対称性の破れに起因する顕著な量子現象のさらなる探求を行う。バリウムイオンの液体ヘリウム中レーザー分光の手法を確立し、光ポンピングによるスピン偏極とその緩和時間測定への応用を実現する。この手法を超流動ヘリウム3表面に適用することでマヨラナ状態を検証する。 2 ヘリウム表面上2次元電子系で我々が発見した、表面準位間のマイクロ波励起に伴う磁気伝導度消失現象の機構解明と、ヘリウム表面上の単電子輸送を組み合わせる。これによって、表面状態の量子ダイナミクスを研究すると同時に、そこで得られた知見を量子ビット作成へと応用する。 今年度は、1についてバリウムイオンの液体ヘリウム中への導入と、そのレーザー励起と発光を試みた。事前の予想したほど簡単には実現できなかったが、レーザーアブレーションと高周波放電を組み合わせることで、液体ヘリウム中に導入したバリウムイオンからの発光を確認することに成功した。また従来からのイオンの輸送現象の測定は、順調に進捗した2の項目については、取り立てた成果は得られていないが、主に人的資源の問題がネックとなっている。早期に研究実施体制を再構築することが喫緊の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に購入した無冷媒希釈冷凍機が約1年前に納入され、初期性能試験、信号線などの整備、実験試料容器の設置などを行い、測定準備が整った。この希釈冷凍機は台湾国立交通大学に設置され、連携実験室のD. Reesが林教授の監督のもとに作業を行っている。今後有意なデータを生産することが期待される。 液体ヘリウム中にバリウムイオンを導入して、そのレーザー分光を用いた実験のアイデアはこれまでにない研究の飛躍をもたらす可能性を強く感じさせるものである。当初の予想では、即座に実現できそうに思えたが、実際にイオンを液中、特に表面下に捕獲しようとすると、多くの開発要素があることが判明した。まず、液中におかれたイオンからの発光を観測するためには現有のレーザーでは強度不足の恐れが懸念されたため、今年度の本経費によって手当てした。その納入が1月にあり、その後即座にそのレーザーを用いて実験を開始したところ、確かに液中に存在するバリウムイオンからの発行と考えられるスペクトルをとらえることに成功した。これと同時に効率よくバリウムイオンを生成する方法としてヘリウム蒸気中の高周波放電を援用するアイデアを得て、これを実現した結果、格段に効率よくイオンを生成することができた。 このように目的を達成するための開発試験は順調に推移しているが、いまだ、問題の本質に迫る信号を得るに至っていないことから、なお一層の努力を必要とする段階にある。
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Strategy for Future Research Activity |
バリウムイオンの生成の目処はたったので、イオンを液中に導入するもっとも容易で信頼性の高い条件を探ることが現在の課題である。これには試験用の試料容器をいくつか作成し、各要素ごとに確認を行うので、多少の時間を必要とするが、夏までにはすべての要素についての知見をまとめ、イオンをヘリウム自由表面下にトラップするための装置の製作を開始する。この実現をまち、詳細なレーザー分光、すなわち偏光のおよぼす効果を明らかにして、光ポンピングによるスピン完全偏極を実現する。これを実現した暁には、この手法を超低温で実行するために、光ファイバーを基盤とする分光システムの構築を行う。これがなされた後、ヘリウム3を用いた希釈冷凍機温度域の実験へと段階的に作業を進める。この場合、ヘリウム3と4の比較実験を行うことで、ヘリウム3のみが持つ核スピンに起因する磁気的な性質が偏極スピンの緩和に及ぼす影響をまず明らかにする。この段階で、超低温装置に高強度レーザー光を導入することによる温度上昇への懸念があるので、その状況に応じて適切な方法によって不必要な熱流入を防ぐ必要があることが予想される。これがうまくできるかどうかが、現在のところもっとも大きな懸念材料である。この実験に携わる研究員はレーザー分光をバックグラウンドとしており、低温実験に慣れた人間との協働が不可欠である。また、実際の作業を分担する学生あるいはテクニシャンの人的資源の確保がもう一つの鍵であり、そのための可能性を広く探索して適切な体制を整備する。 ヘリウム表面上の単一電子制御あるいは操作の試みは、台湾交通大学の連携実験室との共同研究により、進んでいる。日本サイドでは新規なデバイス構造の作成とその基礎データの取得を行っており、適切な辞典で試料を台湾に送り、測定を実施する。また、電子の表面状態からの引き抜き技術の開発を並行して行っており、いよいよ実地の測定を行える段階に来ている。測定方法の有効性が実証でき次第、単一電子の量子状態測定への応用に向かう。 ヘリウム表面電子のマイクロ波励起と磁気輸送現象の実験は、研究員の理解不足もあり、意図した測定を行うことができるかどうか危ぶまれる残念な状況にある。この状況を早期に打開するために努力を続けている。その結果、場合によっては前者2つのテーマに資源を集中して状況を打開するとともに、研究成果の最大化を図る場面もありうる。
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Research Products
(20 results)