2015 Fiscal Year Annual Research Report
ヘリウム表面における新奇量子現象-マヨラナ状態の検証
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24000007
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
河野 公俊 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (30153480)
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Project Period (FY) |
2013 – 2016
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Keywords | 低温物性 / トポロジカル超流動 / 対称性の破れ / 非線形非平衡現象 / ヘリウム液面電子 / ヘリウム液面イオン / 少数電子制御 / 量子計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、国際的に高く評価されている2次元電子系やイオン系を用いたヘリウム表面に特有な量子現象の研究によって、これまでに得られた知見の中で特に重要なものについて、集中的に研究を深化させることにより、これまでの研究を集大成することを目的とする。具体的には以下の項目について重点的に研究を行う。 1 超流動ヘリウム3自由表面に存在することが期待されるマヨラナ表面状態を検出するための実験手法を確立する。バリウムイオンの液体ヘリウム中レーザー分光の手法を用いて、光ポンピングによるスピン偏極とその緩和時間測定への応用を自由表面下において実現する。 2 ヘリウム表面上2次元電子系で我々が発見した、表面準位間のマイクロ波励起に伴う磁気伝導度消失現象の機構解明と、ヘリウム表面上の単電子輸送を組み合わせる。これによって、表面状態の量子ダイナミクスを研究すると同時に、そこで得られた知見を量子ビット作成へと応用する。 今年度は、液体ヘリウム中バリウムイオンの発光スペクトルの観測を目指した。レーザーアブレーションと高周波放電を組み合わせることで、液体ヘリウム中に再現性よくバリウムイオンを導入する条件を見出すために、系統的な研究を行った。電気流体力学的に興味深い現象を多く観測した。またガス中ではあるがバリウムイオンの励起状態にヘリウム原子が付着した束縛状態間の遷移に伴う発光を初めて観測した。2の項目については、2次元電子系の縁に局在した磁気プラズ振動モードと自発的な電流振動現象との間の関係について掘り下げた研究を行った。幅7.5ミクロン深さ2ミクロンの毛細管凝縮したヘリウムチャネル上の擬1次元ウィグナー結晶のスティックースリップ現象の観測に初めて成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
液体ヘリウム表面にバリウムイオンを捕獲して、そのレーザー分光を用いる実験のアイデアはこれまでにない研究の飛躍をもたらす可能性を強く感じさせるものである。しかし、イオンをヘリウム表面下に捕獲しその発光を捉えることは簡単ではないことが明らかになった。液体ヘリウム中に存在するバリウムイオンからの発光を観測することには成功したが、それを表面に捕捉してレーザー分光を行うことはいまだに開発途上である。その一方で、イオン電流の系統的な制御を行うなかで、多彩な電気流体力学効果が見いだされ、興味深い研究対象となることが期待される。 一方、少数電子制御では毛細管凝縮を利用したマイクロチャネル上のウィグナー結晶の伝導現象において、スティックースリップ現象が観測され、ウィグナー結晶と液面の凹みとの結合と乖離という新しい現象の研究が展開しようとしている。マイクロ波励起下の磁気伝導現象の異常についてもエッジマグネトプラズモンとの関連が徐々に明らかになりつつある。 今年度から研究室の体制が変わり、任期制研究員のみで研究を実施することとなったため、多少の混乱はあったが、新しい発見もあり、今後の展開が期待できる状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
バリウムイオンを液体ヘリウム表面下に捕獲してレーザー分光を行う方法を探求しているが、当初の予想よりも極めて困難であることが明らかになった。この原因を究明して困難を克服するための系統的な実験を行った結果、興味深い電気流体力学的現象が多数あることが分かった。例えば、液面上に針状電極を設けて、液体ヘリウム中のイオンを針状電極の下に捕獲する条件を調べている過程で、液面が盛り上がり、先鋭な先端から電荷が針状電極めがけて吹き上がる、テーラー三角錐が観測されたり、イオン流に引きずられて対流が発生することが分かった。このような現象が超流動ヘリウムで見いだされるのは初めてのことである。これらの流体力学現象と放電現象が複雑に絡み合った現象の高速度イメージングによる解析は他の流体では得ることのできない新しい知見をもたらすことが期待される。 ヘリウム表面上の少数電子制御試みを、台湾交通大学の連携実験室において進めているが、今年度、ウィグナー結晶のスティックースリップ現象が観測され、ウィグナー結晶と液面の凹みとの間の動的な結合-乖離現象という全く新しい研究対象が加わることになった。この現象はポーラロンの動的乖離現象とも関連するもので、新たな展開が期待される。これまでに培ってきた、単一電子制御技術をさらに洗練されたものとすることで、単一電子の量子状態操作へと研究の段階を進める。これによって、ヘリウム液面電子を量子ビットとする量子情報処理のを視野にいれた開発研究へと展開することが可能となる。 ヘリウム表面電子のマイクロ波励起と磁気輸送現象の実験は、自発的発振現象の詳細と機構解明が、今後とも引き続いて課題である。この系は非線形非平衡現象の宝庫であるので、少数電子制御デバイスと組み合わせることで、新しい研究領域を開拓する。 今年度が最終年度前となるので、これまで収集に追われ、未整理のままとなっているデータを解析し、論文として発表するとともに、本研究計画終了後の研究をどのように進めるべきかについても慎重に検討をする必要がある。
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Research Products
(29 results)