2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24224012
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡部 直樹 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (50271531)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
日高 宏 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (00400010)
大場 康弘 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (00507535)
羽馬 哲也 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (20579172)
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Project Period (FY) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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Keywords | 地球外物質科学 / 星間塵表面反応 / 同位体分別 |
Outline of Annual Research Achievements |
星間塵表面における同位体分別(重水素濃集)機構の普遍性および分子種による定量的な評価を行うため,もっとも単純な直鎖系炭化水素であるアセチレン(C2H2),エチレン(C2H4)に着目し,低温固体表面における水素(H)原子および重水素(D)原子反応の実験を行った.固体サンプルとして純C2H2,C2H4固体および,氷星間塵表面での反応をシミュレートするためにH2O氷上に1分子層以下のC2H2, C2H4をそれぞれ蒸着したものを用いた.実験の結果,H原子が付加する反応では,いずれの場合でもH2O氷上での反応速度が純固体の2倍程度速くなり,H2Oが触媒的な働きをすることが示された.また,H原子付加,D原子付加反応ともにC2H4反応系がC2H2反応系の3~4倍速いことが明らかになった.前年度に得られた「トンネル反応にも関わらず,大きな同位体効果が見られない」という結果は,反応がH,D原子の表面拡散で律速されており,拡散係数がH,D原子で大きな違いがないことでうまく説明できた. 気相における重水素濃集プロセスに密接に関連する,氷表面での水素分子の核スピン転換速度の表面温度依存性を調べた.その結果,オルソ→パラの核スピン転換速度は9.5~12Kという極めて狭い温度範囲でおよそ5倍に急増し,12K以上でほぼ一定の値をとることが明らかになった.この核スピン転換速度の温度依存性は,既存のモデルでは説明ができない.データを解析したところ,転換速度は表面温度のおよそ7乗に比例することが分かった.このことから,観測された転換速度はスピン転換が生じた際の余剰エネルギーを2つのフォノンで緩和させるプロセス(ラマンプロセス)で支配されていることが分かった. 直鎖状炭化水素,芳香族炭化水素の延長として立体構造を持つC60固体の水素化,重水素化の実験に着手し,これまでにこれらの反応が充分に進むことが確認された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H27年度は,当初予定していたアセチレン,エチレンの重水素化実験を終了することができた.昨年度完結させた10K氷表面における水素原子拡散メカニズムの研究論文がPhysical Review Letter誌に掲載された.低温氷表面における水素分子の核スピン転換の温度依存性を精密に測定すると同時に,転換速度を支配する物理メカニズムを初めて提唱した.この研究に関しては想定していた以上の知見が得られたといえ,現在論文の査読を受けている.C60固体に関する研究は当初予定以上のものである.いっぽうで,当初予定にあった酸素原子を使った実験は行えなかった.以上のことから,総合的にみて,おおむね順調に進展していると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
星間塵表面反応による星間分子の重水素化に関する実験をおこなう.具体的には,最も始原的なエーテルであるジメチルエーテルを低温基板上に蒸着し,重水素原子を照射することでH-D置換反応とその温度依存性を調べる.ジメチルエーテルにおけるH-D置換にはトンネル反応が必要となるが,これまでのアルコール類,芳香族炭化水素の研究から,反応は効率的に生じることが期待される.実験には純ジメチルエーテル固体と,ジメチルエー テル-水混合固体の2種類を用い,氷の存在が反応に及ぼす影響を調べる. 水素・重水素原子および酸素原子の低温シリケイト表面における拡散実験をおこなう.各種原子を,低温に冷却したシリケイト基板に蒸着し,再結合による表面原子数の減少をレーザー刺激脱離法,共鳴多光子イオン化法で調べる.得られた減衰速度から原子の表面拡散係数を見積もる.拡散・反応の場であるアモルファス氷表面の構造を原子間力顕微鏡で観測することを目指す.
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Research Products
(32 results)