2014 Fiscal Year Annual Research Report
小分子アルカン類を水酸化するバイオ触媒システムの分子設計
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24225004
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
渡辺 芳人 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 教授 (10201245)
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Project Period (FY) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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Keywords | 金属酵素 / 触媒 / ガス状アルカン / 水酸化反応 / シトクロムP450 / ベンゼン / エタン / フッ素化合物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,常温・常圧下でメタンの水酸化反応を達成することを最終目標として掲げ,独創性の高い様々な手法を開発するとともに,それらを組み合わせることで,これまで不可能とされてきた反応に挑戦してきた.ガス状アルカンの水酸化では,P450BM3に対してパーフルオロアルキルカルボン酸(デコイ分子)を取り込ませることにより,エタンの水酸化が可能であることを報告した.また,パーフルオロアルキルカルボン酸のカルボキシル基をアミノ酸で修飾した第二世代のデコイ分子を用いると,常温・常圧でエタンを毎分44回転で水酸化できることを明らかにしている.さらに,第二世代のデコイ分子を用いることで,デコイ分子が結合したP450BM3の結晶構造解析に成功し,デコイ分子を取り込んだP450BM3の活性部位の構造を原子レベルで眺めることができるようになった.デコイ分子を用いる反応では,ガス状アルカンだけでなくベンゼンとその誘導体を水酸化することができる.ベンゼンの水酸化では,生成物のフェノールが更に酸化される過剰酸化反応がほとんど進行せず,選択的にフェノールが得られることを報告した.また,トルエンやクロロベンゼンなどの一置換ベンゼンも水酸化可能であり,置換基によらずにオルト位を選択的に水酸化できることも併せて明らかにしている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は,これまでに培ってきた人工金属酵素開発に関する知見を結集し,天然ガスの主成分であるメタンやエタンの水酸化反応を触媒する強力な酸化酵素系を開発することを研究目的とした.平成25年度には,エタンとベンゼンの水酸化反応に成功し,平成26年度には,常温・常圧でのエタンの水酸化反応に成功している.さらに,平成26年度には,デコイ分子を取り込ませたP450BM3の結晶構造解析に成功した.3年の研究期間を費やしたが,すでに,最終的な研究目標として掲げたエタンの水酸化に成功しているだけでなく,メタンの水酸化に向けた足固めが進んでおり,本研究課題期間中に,ヘム酵素によるメタンの水酸化を達成できると考えており,当初の目標を超える予定以上の成果が見込まれる.
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Strategy for Future Research Activity |
長鎖脂肪酸水酸化酵素のP450BM3に対して、第二世代デコイ分子を作用させることによりプロパンとエタンの水酸化に成功したが,メタンの水酸化反応は全く進行しなかった.第二世代のデコイ分子が結合したP450BM3の結晶構造解析の結果から,基質が取り込まれると考えられるヘム上方の空間は,プロパンの分子サイズ程度の大きさであることが明らかになった.メタンを水酸化するためには,この空間をアミノ酸置換によってメタンのサイズに合わせて最適化する必要がある.そこで、ヘム周辺のアミノ酸を置換した変異体ライブラリーを作成し、メタンの水酸化が可能な反応系を構築する.メタンの水酸化反応は生成物のメタノールがメタン由来であることを13Cメタンを基質として丁寧に確認する予定である.
P450BM3の反応では,高価な還元剤のNADPHが消費されてしまうため,実際の合成反応に利用可能な反応系とするためには,NADPHを再生するグルコースデヒドロゲナーゼを利用して,NADPHを再生する必要がある.しかし,疑似基質として用いるパーフルオロアルキルカルボン酸によってグルコースデヒドロゲナーゼが失活するために疑似基質を用いる反応系ではグルコースデヒドロゲナーゼをうまく利用できない.グルコースデヒドロゲナーゼが失活する理由として,疑似基質のフッ素原子の影響が大きいことが分かってきた.フッ素原子を含まないデコイ分子を開発することができれば,グルコースデヒドロゲナーゼによってNADPHを消費することなく反応を行うことができる.そこで,フッ素原子を含まない高活性な第三世代デコイ分子を開発する.試薬としては非常に高価なNADPHを消費することなく反応を行うことができるため,反応コストを大幅に削減することができる.
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