2012 Fiscal Year Annual Research Report
水田の生物がもたらす生態系サービスの賢い利用を導く技術と社会の総合研究
Project/Area Number |
24241011
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
夏原 由博 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (20270762)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永田 尚志 新潟大学, 研究推進機構・超域学術院, 准教授 (00202226)
伊藤 豊彰 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (10176349)
丸山 康司 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (20316334)
松下 京平 滋賀大学, 経済学部, 准教授 (20552962)
藤栄 剛 滋賀大学, 環境総合研究センター, 准教授 (40356316)
山根 史博 神戸大学, 経済学研究科(研究院), 講師 (40570635)
大塚 泰介 滋賀県立琵琶湖博物館, その他部局等, 研究員 (60344347)
丸山 敦 龍谷大学, 理工学部, 講師 (70368033)
沢田 裕一 滋賀県立大学, 環境科学部, 教授 (90259391)
岩井 紀子 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (50630638)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 水田 / 生物多様性 / 生物攪乱 / 農業生産 / 間接効果 / ランドスケープ / 国際研究者交流 / ラオス |
Research Abstract |
本課題では、(1)環境保全型水田がもたらす生態系の変化と稲にとっての効果を、微生物から魚類までの生物間相互作用の機能として解析し、(2) 水田や休耕田ビオトープが広域的な生態系に及ぼす効果をアンブレラ種を指標として評価し、(3) 水田地帯の生態系サービスを認知するための条件を明らかにすることを目的としている。 (1)水田内にエンクロージャーを設け、イトミミズ類によって、有機物の分解が促進され、田面水のアンモニウム態窒素と無機態リン酸が増加、雑草の発生が減少し、玄米収量と外観品質が向上した。滋賀県の調査地では冬期湛水によってドジョウが減少した一方で、中干しの中止によってはドジョウやトンボのヤゴが継続して生息した。集水域規模での水田への魚類の移動パターンの把握ができた。同時に、魚類のCytB領域の配列を把握し、「環境DNA」技術による魚類相把握の適用の準備も整えた。 (2)放鳥トキの認証米水田の利用率は、放鳥直後は低かったが、徐々に増加し、2012年には採餌水田の約23%は認証米水田となった。1日の行動圏は、佐渡島中部、国中平野では3〜4Km2になり、南部(1km2弱)より大きかった。滋賀県では、チュウサギの水田依存度は高く、稲の生長とともに畦や休耕田を利用する頻度が増加した。また、冬期湛水田での採餌個体数が有意に多かった。 (3)日本の作物多様性が農業生産に及ぼす影響を自己回帰型分布ラグモデルを用いて検証し、作物多様性が乏しい地域はそうでない地域に比べて農業生産性が高いことなどを明らかにした。また、農業体験を伴う研修プログラムによる人材育成効果について定性評価をおこなった。ラオス南部水田地帯において、生物資源の利用ならびに農業生産に関する聞き取り調査を行った。生物資源の採取活動が、低所得世帯の生計手段や所得低下時の対処手段の一つとして位置付けられうることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
いくつかの生物について、環境保全型水田による効果が明らかになった。一部の実験系では、生物の増加による米の増収や品質向上の結果も得られた。農家や消費者にとって、生物多様性によってもたらされる生態系サービスへの認知度を高める方法について、展望が開けた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)生き物がいることによってもたらされる水田の変化を明らかにするために、福井県とラオスで野外操作実験を開始する。実験には、地域住民が参加できる形での実験を目指し、実験に使用する生物の捕獲イベントなどを企画している。また、イトミミズ類による田面水への養分移行を解析する。また、物理的攪乱量を定量し、それが土壌の養分供給能に及ぼす影響を解析する。 (2)環境保全型農法による生物多様性への影響を引き続き調査する。魚類が自然状態で侵入できる水田の現地調査、情報の集約を行ない、確認された16種の利用目的や魚の入りやすい水田構造について検討する。ミミズなど、これまで知られていない生物についても調査を進める。トキとチュウサギについて、水田にインターバル撮影装置を設置することで、水田タイプ別の水田利用様式を明らかにする。その結果とGPS装着個体のデータをもとに、水田タイプと周辺の土地利用の両方を考慮した水田選好性の解析をおこなう。 (3)作物多様性が農業生産に及ぼす影響を定量モデルとともに定性的観点から検討を加える。水田農業における生態系サービスに対して消費者・生産者が抱く経済価値評価の定量的分析を行うため、「コウノトリ育むお米」に関する選択型実験を行い、このブランド米の付加価値を計測すると同時に、コウノトリが絶滅危惧種であるという情報を提供した場合の付加価値の変化を検証する。生産者の評価に関しては、分析目的に適した生物多様性指標データを探索する。一方で、入手可能なデータを用いることで導かれる分析結果を整理した上で、水田稲作における生物多様性の経済価値と他の生産要素との代替可能性を計測する。生物資源を利用する農家の特徴や小規模金融組織の利用が農業の生産性や生物資源の利用に及ぼす影響を明らかにする。このため、ラオスの研究者らの協力を得つつ、チャンパサック県内農家の家計調査を実施する。
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Research Products
(32 results)