2013 Fiscal Year Annual Research Report
分散型電力システムの制度設計と社会経済的評価、その地域再生への寄与に関する研究
Project/Area Number |
24241015
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
諸富 徹 京都大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (80303064)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
南部 鶴彦 学習院大学, 経済学部, 教授 (00061416)
八木 信一 九州大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (10334145)
川勝 健志 京都府立大学, 公共政策学部, 准教授 (20411118)
門野 圭司 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (30324180)
太田 隆之 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (50467221)
小林 久 茨城大学, 農学部, 教授 (80292481)
佐無田 光 金沢大学, 経済学経営学系, 教授 (80345652)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 分散型電力システム / エネルギー協同組合 / 再生可能エネルギー / 電力自由化 / 連邦カルテル庁 / 連邦系統規制庁 / 市場プレミアム制度 |
Research Abstract |
昨年度は、2年目に研究を進めるとしていたドイツの再エネを中心とする分散型電力システムの調査事業を行い、大きな成果があった。そこで分かってきたことをまとめると、下記のようになる。 【1】担い手としてのエネルギー協同組合の隆盛 いまドイツでは、新設される協同組合のうち、エネルギー協同組合が占める比率が増加の一途をたどり、2011年には63%にも達している。これは、「協同組合法」改正によって、組合設立のハードルが大幅に引き下げられたことが大きく寄与したとみられる。「協同組合」という遣いでのいい組織を用いれば、それまで電力生産に全くの素人であった農山村部の地域住民たちを、再エネ発電の事業家に変貌させることができる。こうして電力生産は、組合を通じてドイツ全土の農山村部にまで「分散化」し、素人の地域住民も共同して担い手になることで、その「民主化」が進行していることが明らかになった。 【2】電力自由化と再エネ 1996年の電力自由化に関するEU指令により、ドイツは1997年から98年にかけて電力自由化を推進、発送配電の分離が行われた。公共インフラとして送配電部門の中立性・公平性を担保するために、「連邦カルテル庁」は寡占やカルテルをチェックし、「連邦系統規制庁」は電力の系統使用料、使用権の設定、系統の拡張・配電の調整を担当している。「再生可能エネルギー固定価格買取制度」の下で、再エネは量的に拡大しただけでなく、「グリッド・パリティ」を下回るコストで供給され始めており、2012年に「市場プレミアム制度」が導入された。残る課題は、発電容量(キャパシティー)市場の創設である。変動電源である再エネの大量導入には、ガス発電をはじめとする補完電源が必要になるが、そこへの投資が進まない。そこで、「キャパシティー」市場の創設による問題解決が議論されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、福島原発事故を契機に、日本の電力システムのあり方を再検討することを目的とし、具体的には第1に、集中電源による一方向型の大量送電システムがもつ脆弱性を克服するために、「デジタルグリッド構想」を核として、分散型電源による双方向型の電力供給システムの設計を、文理融合型で推進すること、第2に、原子力への依存度を引き下げ、なおかつ火力発電にも傾斜せずにエネルギーの低炭素化を進めるために、再生可能エネルギー(以下、「再エネ」と略す)に基づく分散型電力供給システムの制度設計提案を行うことを目的としている。 その結果は、最終年度である3年目に具体化させることになるが、本年度までの研究によって、日本における電力システムの特徴と、再エネの大量導入を前提とする分散型電力システムへの移行にあたっての問題点、その費用の高さ、周波数変動、逆潮流問題など、課題は明らかになってきた。と同時に、これらがまったく克服不可能な課題でないことともまた、本研究の過程で明らかになってきた。 特に、ドイツを中心とする欧州の電力システムの研究によって、その克服に必要な研究課題を明らかにできたことは2年目の研究の大きな成果であった。本研究では、最終年度にこれらの課題を、代替的送電網の設計、「送電権」の創設、再エネ発電技術進歩の促進等の工学的、および社会科学的手法によって克服可能であることを具体例と定量評価で示し、再エネ拡大普及の具体的方策を提示するための基盤的知見を獲得することができたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる本年度は、【部門A】と【部門B】に関して、次のように研究に取り組んでいきたい。 【部門A】 再生可能エネルギーの大量導入を前提とした電力システムのあり方について、「デジタルグリッド」を含めて制度設計研究を進め、インフラのあり方、系統運用のあり方、そして必要となる投資費用や運営費用の費用負担ルールを解明する。また、電力システム改革が進展した場合に必要となる効率的な電力取引市場をシミュレーション上で構築する。さらに、自治体へのアンケートとフォローアップヒアリング調査により、都市エネルギー政策の立案・実施に向けての阻害要因およびその克服方策を明らかにする。 【部門B】 本研究プロジェクトが一貫してフィールドにしてきた長野県・飯田市を念頭に、地域主導型のボトムアップ型再エネ発電事業を、地域の持続可能な発展に結びつけていくためのモデルとそれを支える要素について、社会科学的な解明を行い、結論を引き出す予定である。特に、地方政府の役割に焦点を当てつつ分析を進めて行く。地方政府に求められるのは、民間事業者が公共的、あるいは公益的な事業に参入することを促し、かれらが競争条件の均等が保障された下でビジネスを展開することが可能になるようなプラットフォームを形成することである。また、ファイナンスの観点からは、再エネ発電事業のリスク・コントロールが重要になってくる。上述のように、地域金融機関が事業に対してファイナンスしやすくなるような条件の整備もまた、新しい地方政府の役割となる。本年度は、これらの研究課題に対して、飯田市だけでなく、岡山県・真庭市、北海道・下川町、長崎県雲仙市など、地域主導型再エネ発電事業に取り組んでいる地域について、これまでに行ってきた現地調査に基づいて、比較分析を行いながら、昨年度に行ったドイツ調査の結果も踏まえ、成功要因をモデル化することを目指す。
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Research Products
(17 results)