2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24243027
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉川 洋 東京大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (30158414)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
家富 洋 新潟大学, 自然科学系, 教授 (20168090)
青山 秀明 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40202501)
藤原 義久 兵庫県立大学, シミュレーション学研究科, 教授 (50358892)
相馬 亘 日本大学, 理工学部, 准教授 (50395117)
渡辺 努 東京大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (90313444)
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Project Period (FY) |
2012-10-31 – 2015-03-31
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Keywords | マクロ経済 / エコノフィジックス / 労働生産性 / エントロピー / 分布 / 新古典派 / 負の温度 / 実証分析 |
Research Abstract |
1)CRD (中小企業財務データ) と日経NEEDS (上場企業財務データ) との統合データを過去10年分作成し,企業の労働生産性分布に関する実証分析を行った。従業員数で大企業と中小企業を区別すると,中小企業が生産性の低い母体グループと少数の高い生産性をもつ先導グループに分かれる。製造業と非製造業について比較すると,製造業に対して非製造業では需要不足が顕著である。また製造業については,業種ごとに高生産性企業の出現確率は大きく変わらず,生産性の向上をもたらす技術革新が,産業のインキュベーターの役割を果たしている中小企業群の中で中立的に発生している。他方,非製造業では,経済を支えるべき主要業種(建設業,卸業,小売業)の生産性向上が著しく劣っている。2)現実の労働生産性は,新古典派経済学が期待する「点」としての均衡ではなく,大きく広がって分布している。低生産性の領域では,生産性の向上とともに一企業あたりの平均従業員数は増加するのに対し,高生産性の領域では逆に減少する。低生産性ならびに高生産性の領域におけるそのような分布の振る舞いをそれぞれ「負の温度」,「収容能力の限界性」の概念を用いて統一的に説明する統計物理学的理論を構築した。なお,負の温度は需要不足の度合いを特徴付ける。3)労働生産性と知識の空間分布を把握し,解析するためのシステムとして http://stemcell.ifuture.jp/NLPGDMPJNEAHCOQUMLSWOPPREHLKUIIDM/map7.html を作成中である。4)各国企業財務データ(ビューロー・ヴァン・ダイク社)および自動車部品納入データ(総合技研株式会社)を入手し,労働生産性分布に関して国際比較や自動車産業内での詳細分析を行う準備を進めた。5)Enrico Scalas教授(Sussex大)を招聘し,本研究を進展させるにあたっての助言を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトは、新古典派経済学の正否を議論する上で1つの重要なベンチマークを与える労働生産性について、実証分析と理論研究の両輪で研究することを目的としている。我が国についての網羅的企業財務データに基づく実証分析は、単に労働生産性に広がりがあるという事実ばかりではなく、分布が低生産性側(右上がり)と高生産性側(右下がり)で対極的であることを明らかにした。また、そのような労働生産性分布の特異的振る舞いを統一的に説明できる統計物理学的理論の構築にも成功した。加えて、労働生産性の実証分析は、中小企業グループにおける高生産性企業の割合が大企業グループにおける高生産性企業の割合と比べて遜色ないことを示し、「中小企業即生産性が低い」との認識が短絡的思考であることを究明した。 以上のように、本研究プロジェクトはすでにいくつかの新しい知見を得るとともに、マクロ経済学の理論的再構築に向けて順調に歩を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクトは順調であり、当初の研究計画を大きく変更する必要はない。ただし、研究を遂行するにあたって次の点を強調する。 1)労働生産性分布に関して得られた新しい知見は国内データに基づくものであり、そのような労働生産性分布の特徴が他国でも共通に観測されるものなのかどうか大変興味深い。今年度購入した各国企業財務データ(約6000千万社を収録)を大いに活用し、世界規模で同様の分析を行う。また,労働生産性と知識の空間分布の解析においても、世界をターゲットに据える。 2)労働生産性のみならず他の生産性(全要素生産性、資本生産性)についても研究対象に含め、マクロ経済学の再構築のスコープを拡大する。特に、全要素生産性は各企業の技術革新度を反映すると期待され、全要素生産性と企業成長との関係に着目する。 3)本プロジェクトを進めるにあたってメンバー間の意思疎通をface-to-faceで図ることは大いに重要であり、今年度は月一度のペースで研究打ち合わせを行ってきた。各メンバーはそれぞれ多忙であるが、今後も同様のペースで会合の機会をもつ。
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Research Products
(15 results)