2013 Fiscal Year Annual Research Report
遺伝子発現に重要な関与をする核酸の非標準構造のエネルギーデータベース化とその活用
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24245033
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
杉本 直己 甲南大学, 先端生命工学研究所, 教授 (60206430)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
建石 寿枝 甲南大学, 先端生命工学研究所, 助教 (20593495)
遠藤 玉樹 甲南大学, 先端生命工学研究所, 講師 (90550236)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 核酸構造 / 安定化エネルギー / 相互作用エネルギー / 溶液内化学環境 / 分子クラウディング / 転写反応 / 翻訳反応 / 四重鎖構造 |
Research Abstract |
平成25年度の研究では、核酸構造が遺伝子発現過程に与える影響を『知る』ために、鋳型DNA鎖が形成するヘアピン構造や四重鎖構造による転写反応への影響を解析し、鋳型DNA鎖の構造安定性に依存して転写反応途中での停止(arrest)や滑り現象(slippage)が起こることを見出した(PLoS ONE, 9, e90580 (2014))。また、安定な四重鎖構造が翻訳伸長反応を停滞させることを見出し、mRNA上のどの位置で翻訳反応が停滞するのかを明らかにした(Angew. Chem. Int. Ed., 52, 5522 (2013)、Methods, 64, 73-78 (2013))。さらに、四重鎖構造で翻訳反応が停滞することで、発現されてくるタンパク質の構造形成が影響を受ける可能性を見出した(Nucleic Acids Res., 41, 6222-6231 (2013))。 核酸の構造形成に影響する人工分子を『生む』研究として、四重鎖構造と既存のリガンド分子との相互作用を詳細に解析した(Biochemistry, 52, 5620-5628(2013)、Methods, 64, 19-27 (2013))。また、細胞膜成分のひとつであるコリンイオンが、DNA三重鎖構造を安定化する機構を解析し、核酸構造に結合する新規リガンド分子の設計指針を得た(Sci. Rep., 4, 3593 (2014))。さらに、低分子化合物に結合する核酸配列を取得し、分子間相互作用に伴う速度論的な解析も行った(J. Am. Chem. Soc., 135, 9412-9419 (2013))。 核酸の構造安定性を遺伝子発現制御に『活かす』研究としては、四重鎖構造を安定化するリガンド分子を用いて、翻訳反応途中でのフレームシフトを制御する技術を開発した(Anal. Chem., 85, 11435 (2013))。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、〔1〕核酸構造及びその安定化エネルギーの観点から核酸構造による生体反応の調節機構を『知る』。〔2〕核酸の構造形成及び構造変性を誘起する人工分子を合目的的に『生む』。〔3〕核酸構造の安定化エネルギーに摂動を与えることにより遺伝子発現の制御に『活かす』。というステップを段階的に遂行することで、生体反応を効率的かつ合理的に調節可能にする機能性分子の創出を行う。そのため、3年計画の中間年に当たる平成25年度までに、『知る』研究、『生む』を充足させ、最終年度での『活かす』研究へつなげていくことを課題とした。 平成24年度から進めてきた『知る』研究が実を結び、遺伝子発現過程の重要な反応段階である転写反応、翻訳反応に対する非標準的な核酸高次構造の影響を様々見出した。特に、細胞内のような分子クラウディング環境において安定化される四重鎖構造については、転写反応、翻訳反応だけではなく、翻訳後のタンパク質構造にまで影響を与える可能性を示すことができた。また、『生む』研究では、核酸構造の熱安定性に影響を及ぼし得る化学構造の特徴を明らかにし、特定の核酸構造の熱安定性に摂動を与える分子の設計指針を得ることができている。最終年度では、得られている知見を基に核酸構造の安定性を制御し得る人工分子を合理的に合成し、遺伝子発現の制御に『活かす』予定である。 一方で、既存の核酸構造結合分子を用いて、細胞内での遺伝子発現制御に『活かす』研究成果も得られてきている。特に、低分子化合物との相互作用に伴う四重鎖構造の安定化エネルギーの増大をin vitroで評価し、細胞内の翻訳フレームシフト効率と相関して評価できた。この成果は、『知る』研究から『活かす』研究への橋渡しがうまく進行した良い例である。 以上のような研究の進展度合いを考慮すると、おおむね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の3年目にあたる平成26年度は、『知る』研究、『生む』研究で得られた研究成果を基に、非標準核酸構造の熱安定性に関するエネルギーデータベースを活用して細胞内での遺伝子発現制御系の構築を目指す(『活かす』研究)。平成25年度には、鋳型DNA鎖が形成する高次構造が、その安定化エネルギーに依存して転写反応に影響することをin vitroで示した。そこで今後は、細胞内でも同様の影響が見られるかどうかを定量的に評価する。翻訳反応では、RNA構造に結合する分子を用いて、翻訳フレームシフトを制御できることが示された。そこで、細胞内での機能性タンパク質の発現制御への展開を試みる。 一方で、核酸構造とその他の分子との相互作用の化学的な解析から、核酸構造安定化エネルギーに影響を与え得る分子の化学的特性を明らかにしつつある。そこで、これらの特性を付与した非天然化学構造を有する人工核酸を設計・合成する。そして、任意の塩基配列を標的に非標準的な核酸構造を誘起し、その安定化エネルギーを制御し得る分子を新たに『生む』ことを試みる。そして、細胞外での物理化学的な解析を行うと共に、人工核酸を利用した細胞内での遺伝子発現制御に『活かす』。 以上のように、平成26年度は細胞内での『活かす』研究を中心に進める。そこから得られ知見を蓄積することにより、転写反応や翻訳反応といった反応過程における核酸構造の重要性を『知る』ことにも研究成果を還元できると考えられる。本研究では、非標準核酸構造を対象に、その安定性と生体反応への影響を相関させた定量的なデータベースを構築することを目指す。
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