2013 Fiscal Year Annual Research Report
糖鎖認識系を標的とする創薬を目指した複合糖質機能の構造基盤の解明と分子設計
Project/Area Number |
24249002
|
Research Institution | Okazaki Research Facilities, National Institutes of Natural Sciences |
Principal Investigator |
加藤 晃一 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 教授 (20211849)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山口 拓実 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 助教 (60522430)
矢木 宏和 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 講師 (70565423)
佐藤 匡史 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (80532100)
|
Project Period (FY) |
2012-10-31 – 2015-03-31
|
Keywords | 構造生物学 / 糖鎖認識 / 細胞内レクチン / 免疫グロブリンG |
Research Abstract |
(1)レクチンによる糖タンパク質の細胞内選別輸送システム 血液凝固第V・第VIII因子の細胞内輸送はカーゴレセプターERGIC-53とカルシウム結合タンパク質MCFD2の複合体により担われている。本年度は、ERGIC-53による糖鎖認識の構造基盤を明らかにすることを目的として、ERGIC-53、MCFD2、α1-2マンノトリース3糖からなる3者複合体の結晶構造解析を行った。その結果、ERGIC-53はわずか1残基のアミノ酸の違いを通じて、同一な糖鎖リガンドに対して2通りの異なった様式で立体障害を回避しつつ相互作用し、これにより幅広い糖鎖結合特異性を獲得していることが見出された。さらに、常磁性効果を利用したNMR法と分子動力シミュレーションを組み合わせることにより、ERGIC-53が認識する高マンノース型糖鎖のコンフォメーション揺らぎを原子分解能で定量的に評価する道を拓いた。 血液凝固因子の輸送を考えるにあたっては、ERGIC-53による糖鎖認識に加えて、MCFD2によるポリペプチド鎖との相互作用の機構を理解する必要がある。MCFD2が認識するアミノ酸配列をバイオインフォマティクス解析とNMR解析によって探索し、第V・第VIII因子のBドメインに候補配列を見出した。本ペプチドを用いて詳細な構造生物学解析を行う基盤を整えることができた。 (2)免疫系における糖タンパク質分子間相互作用システム 免疫グロブリンG(IgG)のFc領域とFcγ受容体の相互作用は、両者の糖鎖構造に依存している。本年度は植物等を含む種々の生物基材を利用して、糖鎖構造の異なるIgGを安定同位体標識体として調製した。得られたIgGについてNMR計測を行い、糖鎖がIgGの高次構造に及ぼす影響を探査するとともに、IgGのFc領域への変異導入がFcγ受容体等の親和性に及ぼす効果を表面プラズモン共鳴法などを利用して評価した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に達成した重要な成果は、ERGIC-53、MCFD2、α1-2マンノトリース3糖からなる3者複合体の結晶構造に成功したことである。本研究成果は、2014年2月3日付けの米国の科学雑誌PLoS ONEに掲載された [Satoh et al. (2014) PLoS ONE, 9, e87963]。また、様々な生物基材を利用したIgGの安定導体標識に発現に成功し、糖鎖構造を異にするIgGのNMR解析を実施できた。以上、総合的に判断して概ね順調に研究は進展していると結論した。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)レクチンによる糖タンパク質の細胞内選別輸送システム 本年度までに突き止めた積荷糖タンパク質上におけるERGIC-53/MCFD2との相互作用配列を中心に構造生物学解析に最適なペプチドを設計・作出し、これを用いて活性型MCFD2の相互作用をNMRを用いて精密解析する。また、X線結晶構造解析により、ERGIC-53・MCFD2・血液凝固因子ペプチドの複合体の立体構造解析を行い、積荷受容体による血液凝固因子の認識様式の構造基盤を原子レベルで解明することを試みる。こうした研究を通じて本複合体を標的とする創薬の基盤情報を得る。 (2)免疫系における糖タンパク質分子間相互作用システム 申請者らがこれまでに得た構造生物学データは、IgGのFcに結合しているフコース残基が、FcγRIIIとの相互作用において重要なアミノ酸残基の運動性を規定することにより相互作用を弱めている可能性を示唆している。そこで、糖鎖構造の改変やアミノ酸残基の置換がFcのレセプター結合部位のダイナミクスに及ぼす影響をNMRによる緩和実験等を実施することにより、原子レベルで定量的に評価する。さらに、IgGのFc領域を舞台とする分子間相互作用を総合的に検討することにより、抗体医薬の機能向上に資する基礎的構造情報を得る。
|