2014 Fiscal Year Annual Research Report
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24330039
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川出 良枝 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (10265481)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三浦 信孝 中央大学, 文学部, 教授 (10135238)
永見 文雄 中央大学, 文学部, 教授 (80114594)
松本 礼二 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (30013022)
吉岡 知哉 立教大学, 法学部, 教授 (90107491)
宇野 重規 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (00292657)
鳴子 博子 中央大学, 経済学部, 准教授 (00586480)
小林 淑憲 北海学園大学, 経済学部, 教授 (70275006)
井柳 美紀 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (50420055)
小畑 俊太郎 成蹊大学, 法学部, 助教 (80423820)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 政治思想史 / ルソー / デモクラシー / 政治哲学 / フランス / 国際研究者交流 / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、統一テーマとして「公共の利益」「政治と宗教」を設定し、個別の研究を深め、またこれまでの研究成果を総合した。 現代デモクラシー班は、今年度は「公共の利益」の問題と「政治と宗教」というルソーに密接に関連するテーマを考察し、フランス共和国のライシテの問題を集中的に考察した。ルソー読解班は、ルソーのテクストの厳密な文献学的研究、基礎的な伝記研究を継続した。ルソー批判研究班は、これまで、ディドロら百科全書派、バーク、ベンサム、トクヴィルをとりあげ、そのルソー批判の射程と根拠を図式的な整理に陥る危険を回避しつつ、考察を進めてきたが、今年度は新たにアダム・スミスやスコットランド啓蒙とルソーとの関係を精査する作業を開始した。 斑ごとの活動を総括し、全体の活動の基盤となるのがルソー研究会をはじめとする様々な研究会活動である。ルソー研究会では、2014年6月にフランスの政治思想研究者のセリーヌ・スペクトールを、2015年1月にはルソーを始めとする近代政治思想における家族観について研究するガブリエル・ラディカを招聘した。いずれの場合も、ルソーおよび現代政治理論の観点から見たルソーのデモクラシー論の意義や限界についての連続セミナーを開催し、実り多い成果を上げた。 成果発表に関しては、すでに続々と成果が形になっているが、科研費プロジェクトを総括するものとして、国際シンポジウムの成果を元にした論文集『ルソーと近代―ルソーの回帰・ルソーへの回帰』(風行社)を刊行した。川出・三浦・永見の3名が編者をつとめ、各自が論文も寄稿、研究分担者の鳴子も寄稿している。フランス・スイスの研究者を含む総勢25名の寄稿者からなる本書の出版は本科研費プロジェクトの最大の成果の一つである。他の研究分担者も独自のルソーやルソー批判者についての研究を論文の形で刊行するなど、多大なる成果をあげた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の内、現代デモクラシー班、ルソー読解班については、いずれも当初の計画以上に豊かな成果をあげることができた。とりわけ、その成果は、日・仏・スイスの第一線のルソー研究者の寄稿を得た論文集『ルソーと近代―ルソーの回帰・ルソーへの回帰』(永見・三浦・川出編)の刊行という形で結実した。同書は、テクストの厳格な解釈による新しいルソー像を示すと同時に、その政治論の現代的意義を多角的に析出し、あわせて、日本や中国におけるルソー受容の特質を論じたもので、現時点での最高水準のルソー研究の一つとなり得ているのではないか。また、フランスの若手研究者を積極的に招聘し、それぞれ数回のセミナーを開催し活発な議論をおこなうことができたことも特筆すべき成果である。 とはいえ、研究の結果、ルソー思想についてのあらたな知見が得られ、当初考えていたほどルソーの科学の進歩や文明に対する判断が単純なものではないことも判明した。すなわち、ルソーを単純に近代批判の論者として捉えるのでは不十分ではないかという観点を得るに至った。それをルソー批判研究班にフィードバックしたところ、これまで想定しなかった課題(アダム・スミスやスコットランド啓蒙とルソーとの比較)の必要性が浮き彫りになった。この課題の遂行に早速着手したものの、資料収集等に時間がかかり、十分な成果を当初予定していた期間であげられることができなかったのが残念な点である。
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Strategy for Future Research Activity |
ルソーを単純な文明批判論者とみるのではなく、アダム・スミスやスコットランド啓蒙の論者と比較検討することで、ルソーと「近代」との重層的な関係の全容が明らかになるのではないかという仮説の下で、これまでの研究成果を元に、補足的ではあるものの重要なこの新しい観点について、検証をさらに進めることにより研究を推進していく。そのためには、これまで後回しとなっていた同時代のイングランドやスコットランドの思想動向とルソーとの関係について集中的に調査と考察を深めたい。また、ルソーの文明論の再検討をふまえ、ルソーのデモクラシー論が熟議や多様性を重視する現代型のデモクラシーといささか異なるタイプのものであることについても、さらなる理論的探求を深めていきたい。
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Causes of Carryover |
当プロジェクトの複数の課題には、ルソーをその批判者と比較するという課題があった。ルソーのデモクラシー論およびその現代的意義の再検討という課題はきわめて順調に終了したが、そこから得られた新たな知見を元に、批判者のルソー理解について、さらなる討究が必要なことが判明した。特に、最終年度にアダム・スミスやスコットランド啓蒙の議論との比較の必要性を発見し、急遽、その課題にとりくんだ。しかしながら、厖大な研究蓄積のあるスミスや、準備の不足していたフレッチャー、ファーガスン等の一次資料・研究文献についての資料調査が間に合わず、未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
アダム・スミスやスコットランド啓蒙(フレッチャー、ヒューム、ファーガスンなど)とルソーとの比較という課題を遂行するため、1)間に合わなかった資料収集を継続する。2)ひきつづき小規模な研究会を開催する。補助のためバイトを雇用する。3)国内では収集が困難な資料を閲覧する必要があれば、イギリスへの海外出張をおこなう。その場合は、スコットランド啓蒙の専門家の開催する研究会への参加もおこなう。未使用額は主として、以上の経費に充てることにしたい。
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